(第51回日本糖尿病学会年次学術集会から) -2型糖尿病治療の新たな戦略- インクレチン治療(2) DPP-IV阻害薬

提供元:ケアネット

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公開日:2008/06/11

 

 2008年5月21日~24日(土)まで、東京国際フォーラムにおいて、これまでで最多である11,623名が参加した「第51回日本糖尿病学会年次学術集会(会長:東京大学大学院医学系研究科 門脇 孝氏)」が、開催された。

GLP-1の分解を阻害するDPP-IV阻害薬

 経口血糖降下薬として利用されたインクレチンGLP-1および現在経口血糖降下薬として研究段階であるGIPは、小腸で栄養素が消化吸収されることにより分泌され、膵β細胞のGLP-1受容体およびGIP受容体に結合し、インスリン分泌を促進させる。しかし、体内の酵素であるDPP-IVにより、すぐに分解され、失活してしまう(半減期は2、3分)。このDPP-IVの作用を阻害することで、GLP-1およびGIPの効果を持続させるのがDPP-IV阻害薬である。すなわち、DPP-IV阻害薬を投与することにより、インスリン分泌促進作用を持つGLP-1およびGIPの分解が抑制され、間接的にインスリン分泌を促進させることになる。

わが国で発売が待たれるDPP-IV阻害薬

 現在、わが国では、シダグリプチン(万有製薬・小野薬品/既に欧米で使用中)、ビルダグリプチン(ノバルティスファーマ/米国で承認申請中・欧州で既に使用中)ともに承認申請中であり、近い将来、わが国でも使用できるようになる。

GLP-1誘導体?DPP-IV阻害薬?

 既に海外で多くの2型糖尿病患者に用いられているGLP-1誘導体は、生理的なインスリン分泌促進作用により血糖を低下させるが、それだけではなく、低血糖をきたしにくく、体重を減少させる作用を持つことも明らかになっている。さらに、同じインスリン分泌促進作用を有するSU薬でしばしば問題となる膵β細胞の疲弊がなく、むしろ膵β細胞を回復させることが示唆されている。DPP-IV阻害薬も、生理的なインスリン分泌促進作用、低血糖をきたしにくいという点については同じであるが、体重については、増加はさせないものの、減少させるという作用は、残念ながらない。またDPP-IV阻害薬は、単独投与よりもむしろ、他剤と併用することにより、他の経口血糖降下薬より優れた効果が望めると報告されている。

 安全性については、GLP-1誘導体は嘔気や嘔吐が報告されているが、特に重篤となるものでもない。DPP-IV阻害薬は体内の至るところに存在する酵素であるため、その安全性―これらを阻害することで起こり得る全身に及ぼすさまざまな影響については、今後検討する必要があるということである。
しかし、GLP-1誘導体は注射剤であり、DPP-IV阻害薬は経口薬であるため、DPP-IV阻害薬はGLP-1誘導体よりも患者に受け入れられやすいかもしれない。

インクレチンは日本人で特に有用

 大会最終日に行われたシンポジウム「インクレチン治療の将来展望」で、わが国におけるインクレチン療法の第一人者である清野 裕氏(関西電力病院 院長)は、「インクレチン療法は欧米人より、日本人でより効果がある」と述べた。その理由として、日本人では、インスリン分泌能の低下が主な病態となる2型糖尿病が多いこと、そして、増加しているとはいえ、欧米に比べると日本人では、肥満が少ないことを挙げた。実際に、臨床試験において、日本人でより効果的であることが示唆されるデータも蓄積されており、本大会で報告された。

 近い将来、わが国でも多くの2型糖尿病患者に使用できるようになるGLP-1誘導体とDPP-IV阻害薬。最終日のシンポジウムでは、これら2種類のどちらを優先して使用すべきかが話題となっていた。海外で既に多くの2型糖尿病患者に使用されているとはいえ、まだまだ世界でのエビデンスも蓄積されつつある段階で、日本人におけるエビデンスも少なく、実際の臨床でどのように使っていけるのか、検討する余地がある。インクレチンは、糖尿病治療を大きく変えると期待されているが、世界中で、糖尿病患者を増やさない取り組みが積極的にされていても、世界中で肥満が爆発的に増え、糖尿病患者も増加の一途をたどっているという現実がある。

(ケアネット 栗林 千賀)