5月9日は「呼吸の日」。これに先駆け、インスメッドは罹患者数/死亡者数が増加傾向にある肺非結核性抗酸菌症(肺NTM症)に関するオンラインアンケート調査を実施した1)。その結果、肺NTM症について、「知っている」と回答したのは9.3%、「聞いたことがあるが、詳しくは知らない」は22.3%と、認知率の低さが浮き彫りになった。また、肺NTM症の症状として特徴的な咳や痰の症状を有していたにもかかわらず、全回答者の半数以上(608例)は医療機関を未受診と回答していた。その理由を尋ねたところ、79.9%が「病院に行くほどではないと思っている」と回答していたことも明らかになった。
本アンケートは、肺NTM症を含む感染症および呼吸器疾患に関する一般の意識や行動を把握することを目的に、現在もしくは過去に咳/痰の症状のある/あった30~70代の男女1,092例を対象に、疾患の理解度などの実態を調査したもの。
肺NTM症の課題、疾患浸透率の低さか
肺NTM症とは原因菌である非結核性抗酸菌(nontuberculous mycobacteria:NTM)が肺に感染することにより発症する感染症で、土や水などの自然環境、台所や風呂場などの水回りの生活環境に常在菌として生息し、空気中に漂うNTMを吸い込むことにより感染する
2)。今回、“感染症全般の感染源・原因となる可能性があるもので知っているもの”として、回答者の90%超が「人の飛沫(くしゃみ、咳など)」「ウイルス」と回答したのに対し、肺NTM症の要因となる「水(水道水など)」を挙げたのは35.3%に留まった。また、シャワーなどの水回りの掃除が肺NTM症予防には重要となるが、「水回りの掃除」を意識して行っている人は27.2%と少なかった。
肺NTM症、肺結核の罹患者数をしのぐ勢いで増加
2014年の国内調査によると、人口10万人当たりの肺NTM症罹患率は2007年の全国調査と比較して約2.6倍も増加、現在では肺結核をしのぐ罹患者数となっている。肺NTM症の主な症状として、咳嗽、喀痰、血痰、倦怠感、体重減少などが挙げられるが、症状の強さや疾患の経過は患者によってさまざまといわれている。初期は無症状のことも多く、健康診断やほかの疾患の検査がきっかけとなって偶然にみつかるケース、無症状の場合にそのまま放置してしまうケースも少なくないという。また、厚生労働省の令和4年人口動態調査では、国内で肺NTM症による死亡者数が年間1,158例であったことが報告されており、罹患者数、死亡者数ともに増加の一途をたどっている深刻な疾患である。しかし、今回の調査結果によってその認知率の低さから、罹患率の高い中高年のやせ型女性を中心に啓発を行う必要があることも明らかになった。
肺NTM症と肺結核との大きな違いは、人から人へ感染しないといわれていること、前述のように、水などの自然環境、水回りなどの生活環境にいる菌を吸い込むことで感染する点である。それを踏まえた感染予防対策として、長谷川 直樹氏(慶應義塾大学医学部感染症学教室 教授)は「NTMは消毒薬にも強いという性質があり、生活環境から排除することは難しい。浴室や台所などは、
日頃からなるべく清潔にすることを心掛け、排水溝だけでなく、シャワーヘッドやホースのぬめりを取り除き、よく乾燥させる。掃除の際はマスクを着用することも重要」とコメントしている。
(ケアネット 土井 舞子)
1)インスメッド合同会社:感染症および呼吸器疾患に関する意識調査の結果について
2)日本呼吸器学会:呼吸器の病気_肺非結核性抗酸菌症