「糖尿病医療者のための災害時糖尿病診療マニュアル2024」発行/日本糖尿病学会

提供元:ケアネット

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公開日:2024/06/28

 

 日本糖尿病学会の年次学術集会(会長:植木 浩二郎氏[国立国際医療研究センター研究所 糖尿病研究センター長])が、5月17~19日に東京国際フォーラムなどで開催された。

 2024年1月1日に石川県をはじめとする北陸地方を襲った「能登半島地震」は記憶に新しい。災害時に糖尿病患者やその家族へのサポートなどはどのようにあるべきであろう。

 本稿では「災害時の糖尿病診療支援と糖尿病対策推進会議の活動」より「災害時糖尿病診療マニュアル2024の概要 総論」(講演者:荒木 栄一氏[熊本大学名誉教授/菊池郡市医師会立病院/熊本保健科学大学健康・スポーツ教育研究センター 特任教授])をお届けする。

災害で糖尿病患者は簡単に弱者になる

 地震、洪水などわが国は災害が多く、1,000人以上の犠牲者が発生した災害が多数ある。現在では南海トラフ地震や首都直下型地震、線状降水帯による水害などへの備えがなされている。しかし、それでもこうした災害時には、糖尿病患者は容易に代謝失調やインスリンの不足などにより災害弱者となりうる。

 とくに食事療法での栄養の偏りや治療薬の確保が懸念されている。そこで、日本糖尿病学会と日本糖尿病協会の2つの学会は『糖尿病医療者のための災害時糖尿病診療マニュアル2024』を制作し、発行した。これは2014年に日本糖尿病学会「東日本大震災から見た災害時の糖尿病医療体制構築のための調査研究」委員会が作成した災害時の診療マニュアルを10年ぶりに改訂したもので、熊本地震での知見の追加のほか、新規糖尿病治療薬など最新の診療状況にも対応し、「糖尿病医療支援チーム(DiaMAT)」についても触れたもので、今回日本糖尿病協会も参画し、広く知見が記述されている。

4章立てで災害時の糖尿病診療、平時の準備を説明

 本マニュアルは大きく4章立てで構成され、荒木氏が説明した総論部分は下記のとおりである。

〔I 総論 災害に対する備え〕
「1 ライフラインと情報の整備」では、ライフラインの確保、災害時の連絡体制、バックアップを記載している。
「2 食量や医薬品の備蓄」では、平時からの備蓄食料のローテーション消費や主治医と医薬品の備蓄や調達方法の相談を記載している。
「3 医療機関の災害対応マニュアル、訓練」では、マニュアル整備とその見直し、災害時の人材の確保、院内の備品や食品の管理、地域との連携や訓練などを記載している。
「4 地域の医療連携」では、連携の問題点と課題、災害時の医療連携を記載している。
「5 災害時糖尿病医療従事者の教育」では、医療者への教育、平時の備えの指導(とくにシックデイ)、薬の調整や防災教育を記載している。
「6 糖尿病患者への啓発」では、平時からの備えの啓発としてリーフレットの活用や正しい情報を得るための教育が記載されている。

 また、総論以降の内容は次のとおりである。

〔II 害時の糖尿病医療者の役割〕
 災害派遣医療チーム(DMAT)、糖尿病医療支援チーム(DiaMAT)や医師やそのほかの医療従事者の役割などが記されている。
〔III 個々の糖尿病病態への対応〕
 全体的な注意事項、各治療(インスリン、経口薬、食事・運動療法のみ)での注意事項、合併症のある患者での対応、特別な配慮が必要な患者(妊婦、高齢者など)へのサポートが記されている。
〔IV 患者の備え〕
 避難所の確認や薬剤の備蓄、妊婦・高齢者などの特殊な患者への対応などが記されている。

 その他コラムでは「シックデイ対策/インスリンポンプ使用者/COVID-19」などが記されている。

 将来発生が危惧される大災害に対応するためにも、一読し、今できることから備えておきたい。

(ケアネット 稲川 進)