臨床現場で感じる甲状腺眼症診療の課題とは?/アムジェン

提供元:ケアネット

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公開日:2024/07/09

 

 アムジェンは、2024年6月20日に、甲状腺眼症の診療を取り巻く現状や課題をテーマとしたメディアセミナーを開催した。同セミナーでは、渡邊 奈津子氏(伊藤病院 内科部長)が甲状腺眼症の診断や治療について、神前 あい氏(オリンピア眼科病院 副院長)が甲状腺眼症の臨床経過についてそれぞれ語った。

活動期の早期の治療が求められる甲状腺眼症

 甲状腺眼症はバセドウ病やまれに橋本病に伴ってみられる眼窩組織の自己免疫性炎症性疾患であり、多岐にわたる眼症状を引き起こす。甲状腺は、甲状腺ホルモンを合成・分泌する役割を担っており、正常な状態では下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)が甲状腺のTSH受容体と結び付き、適量のホルモンが分泌される。しかし、バセドウ病では、TSH受容体に対する抗体が生成され、常にTSH受容体が刺激されて過剰なホルモンが分泌される。甲状腺眼症は、目の周囲の眼窩におけるTSH受容体が刺激されることで発症する。甲状腺眼症の病態は非常に広範であり、瞼、角膜、結膜、外眼筋、視神経、脂肪組織、涙腺など、さまざまな部位に影響を及ぼす。たとえば、涙腺の炎症によって涙が出にくくなったり、脂肪組織や外眼筋の肥大により眼球が飛び出したりするケースがある。最重症例では、視神経が圧迫されて視力障害や視神経萎縮が起こることもある。一方で、眼の症状については見落とされることがしばしばあり、臨床で問題となることもあるという。

 甲状腺眼症においては、軽症から中等症の患者の約6割が自然に改善するとされるが、眼球突出や外眼筋障害の場合は治療介入が必要となる。治療法としては、活動期にステロイド治療や放射線治療を行うことが有効だが、活動期を過ぎてしまうとこれらの効果が薄れてしまう。そのため、重症度分類とClinical Activity Score(CAS)を用いた活動性評価を実施し、タイミングを見極めて治療を行うことが重要となる。また、活動性の評価にはMRIを用いた画像診断も推奨される。また、喫煙や甲状腺機能の管理、酸化ストレスなどの甲状腺眼症のリスク因子の管理が重要であり、初診時だけでなく定期的な目のチェックが必要である。

 甲状腺眼症の患者は、視機能障害のみならず、見た目の変化や職業での制限、心理的な影響などによってQOLが損なわれることが多い。とくに複視や眼球突出がQOLに大きな影響を与えるとされるほか、若い女性では外見上の問題が深刻で、軽症であってもQOL改善のために治療を望む患者も多いことに注意が必要である。

 渡邊氏は内科医として、眼科専門医と患者との三者間で連携し、甲状腺眼症の診療を行うことが重要であると強調した。

甲状腺眼症の特徴的な所見とは

 続く講演で神前氏は、自身の経験した症例から甲状腺眼症の治療と臨床経過について説明した。甲状腺眼症において、眼瞼や眼球突出などの症状の進行具合や重さは患者によって異なるという。甲状腺眼症の所見として最も多いのは眼瞼の症状で、バセドウ病を併発している場合はその症状の悪化に伴い、ミュラー筋の緊張により上眼瞼が開くことが多い。この症状はバセドウ病の治療で改善するが、上眼瞼挙筋の炎症や腫れが進行すると、瞼が腫れ、目が閉じにくくなることがある。神前氏の施設では約6割の患者がこの瞼の腫れを訴えているというが、一重まぶたが多い日本人では腫れがわかりにくいこともある。その場合は、目を下に向けると目が閉じにくいといった所見を確認することで鑑別できるという。また、眼球突出は脂肪や筋肉の腫れが原因で起こるが、黒目の下の白目が見えてくるという点が眼球突出を見極めるポイントとなる。

アンメットニーズを満たす新たな治療への期待

 甲状腺眼症の炎症が続いて眼の症状が悪化した場合は、炎症が治まる前に消炎治療が必要になる。日本での消炎治療としてはステロイド治療や放射線治療が用いられるが、消炎治療のみで改善しない場合には、手術が必要になることもある。また、2015年からは斜視に対するボツリヌス毒素注射も保険適用されている。瞼の腫れや見開きに対しては、ステロイドの局所注射が効果的であり、約6割の患者が1回の注射で症状が改善するという。複数回の注射を行うことで、瞼の見開きや腫れがさらに改善される。また、複視の治療では、ステロイドパルス治療や放射線治療が行われ、斜視が残った場合には手術が必要な症例もある。最重症例の圧迫性視神経症は、視神経が筋肉に圧迫されることで視力障害を引き起こす症状であり、ステロイドパルス治療や眼窩減圧手術が必要になることが多い。とくに視力が0.1以下の重症例では、手術が必要になる確率が高いという。

 講演の最後に神前氏は、甲状腺眼症のアンメットニーズについて、現状の消炎治療では眼球突出の改善が難しく手術が必要になってしまうと語り、「ステロイド治療や放射線治療が効果のない症例に対しては新たな治療法が望まれる」と締めくくった。

(ケアネット 生島 智樹)