本邦初の免疫チェックポイント阻害薬(ICI)ニボルマブ。2014年7月4日に製造販売承認を取得してから、早くも10年が経過した。ICIによるがん免疫療法は、どれだけ社会に認知されているのだろうか。また、ICIはがん治療においてどのようなインパクトを与えたのだろうか。小野薬品工業とブリストル・マイヤーズ スクイブは、これらの疑問に答えるべく「免疫チェックポイント阻害薬によるがん免疫療法のいまとこれから」と題し、2024年7月24日にメディアセミナーを実施した。
ICIは医師には定着も、患者さんへのさらなる情報発信が必要
小野薬品工業とブリストル・マイヤーズ スクイブは、がん免疫療法に対する医師・患者さんの現状評価を把握することを目的として、がん治療に関わる医師100人とがん患者さん900人を対象にアンケート調査を実施した。本調査の結果について、高井 信治氏(小野薬品工業 メディカルアフェアーズ統括部長)が紹介した。
アンケート調査の結果、医師の90.0%は「ICIはがん治療の選択肢としての地位を築いた」と回答し、ICIによるがん免疫療法が実臨床に定着したことが示された。また、87.0%が「さらなる発展を期待したい治療法である」と回答し、ICIへの期待の高さがうかがわれた。
しかし、ICIによる治療を受けたことがないがん患者さんでは「複数のがん免疫療法を知っている」と回答したのは2.9%、「知っているがん免疫療法がある」と回答したのは9.6%に留まり、「名前を聞いたことがある」と回答した50.6%を含めても、がん免疫療法の認知率は63.0%であった。また、この集団(がん免疫療法を認知しているICI未経験の患者さん)に対し、がん免疫療法について知っていることを聞いたところ、「医学的に効果が認められているがん免疫療法には、抗がん剤治療などとは異なる副作用がある」と回答した割合は26.3%に留まり、免疫関連有害事象(irAE)に関する認知や理解が低いことが示唆された。このことから、がん患者さんや一般生活者の方々への正しいがん免疫療法の認知、理解促進に向けてさらなる情報発信が必要であると考えられた。
がん免疫療法の正しい理解促進に向けて、小野薬品工業では患者さん向けの啓発サイト「ONO ONCOLOGY」の充実を図るほか、ブリストル・マイヤーズ スクイブと共同で、臨床試験結果の論文を平易な言葉で要約する「プレーン・ランゲージ・サマリー」を公表している。
【アンケート調査の概要】
<調査実施期間>
2024年6月21~28日
<調査対象>
医師:ICI適応がん腫いずれかに関連する診療科で全身化学療法によるがん治療経験のある医師(病床数200床以上)100人
患者さん:(1)20~70代のICIによるがん治療を受けたことのある200人、(2)20~70代のICI適応のがん腫ではあるがICIによる治療は受けたことのない700人
ICIの登場により患者さんへの説明は大きく変わった
続いて「免疫チェックポイント阻害薬ががん治療に与えたインパクト」というテーマで林 秀敏氏(近畿大学医学部 内科学腫瘍内科部門 主任教授)がICI登場後のがん治療の変化を紹介した。
林氏が専門とする肺がんの場合、ICIの登場前は進行期の患者さんの5年生存率は5%未満であったが、ICIの登場後は20%程度に改善していると述べた。ICIの登場前は、進行期の患者さんへ「長生きするチャンスはありますが、治るというのは難しいです」と伝えていたという。ところが、ICIの登場後は治癒に近い形で長期生存が得られる患者さんも存在するようになり、「高い効果がみられるのは2割程度です」との前置きは必要としつつも、患者さんへ大きな希望を持たせることができるようになったと語った。
また、ICIの登場により希少がんの治療薬開発状況も変化している。ICIの登場前は、希少がんに対する治療薬の開発は非常に困難であった。しかし、ICIの登場により希少がんや原発不明がんに対する治療薬の開発が可能となった。実際に、林氏らの研究チームは、原発不明がんに対するニボルマブの有効性を検討する医師主導治験(NivoCUP試験)を実施し、その結果をもとにニボルマブは原発不明がんに対する適応を取得している。この反響は非常に大きかったという。「本試験の結果がYahoo!ニュースのトップに掲載され、近畿大学に行けばICIによる治療を受けられるのかという電話が数多くかかってきたことを覚えています。原発不明がんの患者さんは日本中にいて、治療薬の開発を求めていたことを実感しました」と林氏は述べた。なお、原発不明がんに対してICIの保険適用が得られているのは、日本におけるニボルマブのみである。
irAEの伝え方は?
アンケート調査結果では、がん免疫療法を認知していてもICIによる治療を受けたことのない患者さんでは、irAEに関する理解が不十分であることが示唆された。そこでセミナー終了後、ICIによる治療を実施する際の患者さんへの説明方法を林氏へ聞いた。
アンケート調査結果を踏まえて、irAEをどう伝えるべきかを聞いたところ、林氏は「irAEは頻度が少ないのに種類が多いため、患者さんへの教育にも限界があります。では、どこまで伝えるのが適切かというのはすごく難しいと感じます。患者さんによって理解度は異なりますし、複雑な伝え方をしてしまうと理解できず、びっくりさせて不安を与えるだけになってしまいます」と話した。そこで、実際にどのように伝えているかを聞いたところ「私はシンプルに伝えています。38℃以上の熱があったらとりあえず連絡をください、下痢が止まらなかったら連絡をくださいという形で、できるだけシンプルに伝えています。100%の説明にならなくてもよいと思います。100%で説明して理解されないよりも、50%で伝えて理解できるほうがよいと思っています」と述べた。ただし、この伝え方が必ずしも正解とは限らないとも述べ、患者さんへの説明用アプリなどの開発とその活用への期待も語った。
(ケアネット 佐藤 亮)