高齢者への低用量アスピリン、中止すると…?

提供元:ケアネット

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公開日:2024/08/21

 

 心血管疾患(CVD)を有さない高齢者において、低用量アスピリンはCVDリスクを低下させず、全死亡や大出血のリスクを上昇させたことが報告されているが1,2)、すでに多くの高齢者に低用量アスピリンが投与されている。そこで、オーストラリア・モナシュ大学のZhen Zhou氏らは、アスピリン中止の安全性を明らかにすることを目的として、CVDを有さない高齢者において、低用量アスピリン中止がCVDリスクに与える影響を検討した。その結果、低用量アスピリン中止はCVDリスクを上昇させず、大出血リスクを低下させることが示された。本研究結果は、BMC Medicine誌2024年7月29日号に掲載された。

 本研究は、CVDを有さない70歳以上(一部65歳以上を含む)の高齢者を対象として低用量アスピリンの有用性を検討した「ASPREE試験」1,2)の参加者のデータについて、target trial emulationの手法を用いて後ろ向きに解析した。ASPREE試験でアスピリンが投与された参加者について、アスピリンを中止した群(中止群:5,427例)、継続した群(継続群:676例)に分類して比較した。主要評価項目はCVD、主要心血管イベント(MACE)、全死亡、大出血とし、Cox比例ハザードモデルを用いて、3、6、12、48ヵ月のフォローアップ期間におけるハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を推定した。HRおよび95%CIの推定の際には、傾向スコアによる調整を行った。

 本研究において、中止群では、短期(3ヵ月後)および長期(48ヵ月後)におけるCVD、MACE、全死亡のリスクの有意な上昇はみられなかった。一方、12ヵ月後の全死亡および3、12、48ヵ月後の大出血のリスクは有意に低下した。傾向スコアによる調整後の中止群の継続群に対するHR、95%CI、p値は以下のとおり。

【CVD】
・3ヵ月後:1.23、0.27~5.58、p=0.79
・6ヵ月後:1.49、0.44~5.03、p=0.52
・12ヵ月後:0.69、0.33~1.44、p=0.32
・48ヵ月後:0.73、0.53~1.01、p=0.06

【MACE】
・3ヵ月後:1.11、0.24~5.13、p=0.89
・6ヵ月後:1.39、0.41~4.73、p=0.60
・12ヵ月後:0.73、0.34~1.58、p=0.42
・48ヵ月後:0.84、0.57~1.24、p=0.38

【全死亡】
・3ヵ月後:0.23、0.04~1.32、p=0.10
・6ヵ月後:0.76、0.15~3.75、p=0.73
・12ヵ月後:0.39、0.20~0.77、p=0.01
・48ヵ月後:0.79、0.61~1.03、p=0.08

【大出血】
・3ヵ月後:0.16、0.03~0.77、p=0.02
・6ヵ月後:0.37、0.09~1.47、p=0.16
・12ヵ月後:0.37、0.14~0.96、p=0.04
・48ヵ月後:0.63、0.41~0.98、p=0.04

 本研究結果について著者らは、3~12ヵ月後におけるイベント数が少なかったことや、継続群は研究開始時点のCVDリスクが高かった可能性があることなどの限界を指摘しつつも「高齢者において、低用量アスピリンを中止してもCVDや全死亡のリスクの上昇はみられなかった。また、低用量アスピリンの中止によって、大出血リスクが低下するため、とくにCVDを有さない70歳以上の高齢者において、アスピリンの処方中止が安全である可能性があると考えられる」とまとめた。

(ケアネット 佐藤 亮)