β遮断薬は、左室駆出率(LVEF)の保たれた心不全(HFpEF)、LVEFが軽度低下した心不全(HFmrEF)を有する患者にも用いられているが、その安全性や臨床転帰への影響は明らかになっていない。そこで、松本 新吾氏(英国・グラスゴー大学/東邦大学医療センター大森病院)らの研究グループは、HFpEF/HFmrEF患者を対象とした4つの大規模臨床試験の参加者を対象として、β遮断薬の臨床転帰への影響を検討する観察研究を実施した。その結果、β遮断薬はHFpEF/HFmrEF患者の臨床転帰を悪化させないことが示唆された。本研究結果は、8月30日~9月2日に英国・ロンドンで開催されたEuropean Society of Cardiology 2024(ESC2024、欧州心臓病学会)で発表され、European journal of heart failure誌オンライン版2024年8月31日号に同時掲載された。
本研究は、HFpEF/HFmrEF患者を対象とした4つの大規模臨床試験(I-Preserve、TOPCAT、PARAGON-HF、DELIVER)の参加者1万6,951例を対象とし、ベースライン時のβ遮断薬の使用の有無で2群(使用群、未使用群)に分けて比較した。主要評価項目は心血管死または心不全による入院の初回発現とした。
主な結果は以下のとおり。
・対象患者のLVEF平均値は56.8%であり、HFpEF患者の割合は79.1%(1万3,400例)であった。
・対象患者のうち75.6%(1万2,812例)がベースライン時にβ遮断薬を用いていた。β遮断薬の用量(ビソプロロール換算)の中央値は5.0mgであり、1年継続率95.1%、2年継続率93.1%であった。
・主要評価項目の発現リスクは、使用群のほうが未使用群と比較して低く(調整ハザード比:0.81、95%信頼区間:0.74~0.88)、LVEFによる影響は受けなかった(p for interaction=0.88)。
・主要評価項目の結果は、ほとんどのサブグループで一貫していた。しかし、心房細動の有無別にみると、心房細動を有するサブグループは有さないサブグループと比較して、β遮断薬の使用が良好な転帰と関連していた(p for interaction=0.02)。
本研究結果について、著者らは「β遮断薬がHFpEF/HFmrEFの転帰を悪化させる可能性は低いことが示唆された。因果関係を確認するためには、大規模な無作為化比較試験が必要である」とまとめた。
(ケアネット 佐藤 亮)