部分発作を適応とする抗てんかん薬として、国内8年ぶりの新薬ブリーバラセタム(商品名:ブリィビアクト錠25mg、同50mg)が2024年8月30日に発売された。ユーシービージャパンは10月2日、「てんかん治療の新たな一歩~8年ぶりの新薬登場~」と題したメディアセミナーを開催。川合 謙介氏(自治医科大学附属病院脳神経外科)、岩崎 真樹氏(国立精神・神経医療研究センター病院脳神経外科)らが登壇し、てんかん診療の現状と課題、ブリーバラセタムの臨床試験結果などを解説した。
新規薬も含めた適切な薬剤の選択で、いかに継続的な服薬につなげるか
てんかんはすべての人があらゆる年齢で発症しうる疾患で、日本での患者数は約71万〜93万例、毎年8万6千例が新たにてんかんを発症していると推定される
1)。認知症をはじめとして間違われやすい症状が多くあること、社会的な偏見があることなどにより、治療法があるのに辿りつけない患者がいまだ多い現状がある。
年齢別の有病率をみるとU字型の分布を示し、先天性の多い小児期のほか、65歳以上で脳卒中、脳腫瘍、アルツハイマー病などに伴い多くなる。高齢のてんかん患者ではてんかん重積状態の発生率が高く、死亡率も高い傾向がある一方
2)、65歳以上で発症したてんかんは治療反応性が良好で、80%以上の患者で発作が消失したことが報告されている
3)。川合氏は、「多剤併用の問題もある高齢者ではとくに、適切な診断と、副作用を考慮した治療薬の選択が非常に重要」と述べた。
日本における抗てんかん薬処方状況をみたデータによると、2018年時点でカルバマゼピンやバルプロ酸などの従来のてんかん薬の処方割合が84.5%を占め、2000年以降発売の新規てんかん薬(ラモトリギン、レベチラセタム、トピラマートなど)の処方は増加傾向にあるものの、従来薬が依然多く処方されている状況がみられた
4)。川合氏は、従来薬群と比較して新規抗てんかん薬群で服薬継続率が有意に高かった(36.5% vs.72.0%)という日本の脳卒中後てんかん患者におけるデータ
5)も紹介。「どの領域でも非専門医であるほうが従来薬を使う傾向があると思うが、てんかん発作薬に関しても同様の傾向がある。しかし、新規薬剤は効果はもちろんのこと、副作用が少なく、対象とするてんかんのタイプが増え、薬物間の相互作用が少ないため、むしろ非専門医にとって使いやすいものなのではないか」と話した。
てんかん患者の運転免許取得、妊娠・出産への対応は
薬の飲み忘れなどによるてんかん発作の影響による重大交通事故はたびたび報道されてきた。しかし、「ひとくちにてんかんと言っても毎日のように発作が起こる患者さんもいるし、ほとんど発作のない患者さんもいる」と川合氏は指摘し、日本におけるてんかん患者の運転免許取得の考え方について、以下のようにまとめた
6):
・てんかんのある人が運転免許を取得するためには、「運転に支障を来す恐れのある発作が2年間ないこと」が条件。薬の服用の有無は関係ない。
・上記の条件のもとで、運転に支障を来す恐れのない発作(単純部分発作など)がある場合には1年間以上、睡眠中に限定された発作がある場合には2年間以上経過観察し、今後症状悪化の恐れがない場合には取得可能。
・ただし、大型免許と第2種免許は取得できない。また、運転を職業とする仕事は勧められない。
また、女性のてんかん患者における妊娠・出産に対しても、医療者には注意が求められる。抗てんかん薬には催奇形性リスクのある薬剤が多く、「てんかん診療ガイドライン2018」
7)では、女性のライフサイクルを考慮した包括的な妊娠・出産についてのカウンセリングを行うこと、抗てんかん薬中止が困難な場合は非妊娠時から催奇形性リスクの少ない薬剤を選択し、発作抑制のための適切な用量調整を行っておくことなどが推奨されている。
レベチラセタムと同じSV2A作用薬、ブリーバラセタムの第III相試験結果
ブリーバラセタムは、レベチラセタム結合部位として同定されたシナプス小胞タンパク質2A(SV2A)に選択的かつ高い親和性をもって結合することにより作用する薬剤。岩崎氏は、ブリーバラセタム国際共同第III相試験(EP0083試験)の結果について解説した。
<EP0083試験の概要>
8)
対象:1~2種類の併用抗てんかん薬(AED)を用いた治療を受けているにもかかわらず、部分発作(二次性全般化を含む)のコントロールが十分に得られていない成人てんかん患者(16~80歳) 448例
試験群:
ブリーバラセタム50mg/日群
ブリーバラセタム200mg/日群
対照群:プラセボ
※8週間の前向き観察期間を終了後、12週間の治療期間を設定
主要評価項目:治療期間の28日当たりの部分発作回数のプラセボ群に対する減少率
安全性評価項目:治験薬投与後に発現した有害事象(TEAE)、副作用
主な結果:
・患者背景は、平均年齢34.5(16~80)歳、日本人は97例(21.7%)含まれ、全例試験開始時に抗てんかん薬を併用しており、最も多く使用されていたのがバルプロ酸塩(39.7%)、次いでカルバマゼピン(30.5%)であった。てんかん発作型分類は、単純部分発作(IA)が50.9%、複雑部分発作(IB)が83.6%、二次性全般化発作(IC)が58.3%であった。
・主要評価項目である治療期間の28日当たりの部分発作回数のプラセボ群に対する減少率について、50mg/日群では33.4%(日本人集団では30.0%)、200mg/日群では24.5%(同14.5%)となり、いずれのブリーバラセタム群でも優越性が確認された(p=0.0005およびp<0.0001)。
・レベチラセタム使用歴の有無別にみると、50mg/日群では使用歴ありで20.5%、使用歴なしで26.8%、200mg/日群では29.5%、35.0%であった。
・発作型分類別にみると、50mg/日群ではIAが6.5%、IBが21.4%、ICが18.2%、200mg/日群では11.1%、27.6%、31.6%であった。
・過去に使用し試験参加前に中止している抗てんかん薬の剤数別にみると、50mg/日群では2剤以下で29.0%、3剤以上で13.4%、200mg/日群では39.3%、17.1%であった。
・副作用の発現割合は、50mg/日群で26.5%、200mg/日群で39.9%、プラセボ群で20.1%。主な副作用(3%以上に発現)は、傾眠(9.3%、18.2%、7.4%)、浮動性めまい(8.6%、10.8%、3.4%)であり、日本人集団においても同様の傾向であった。
単剤で新規発症例にも使用可能、レベチラセタムの代替薬にも
ブリーバラセタムの効能・効果は「てんかん患者の部分発作(二次性全般化発作を含む)」で、用法・用量は1日50mgを1日2回に分けて経口投与となっている(症状により1日200mgを超えない範囲で適宜増減できる)。また、併用注意は、CYP2C19誘導薬(リファンピシンなど)、カルバマゼピン、フェニトイン、アルコール(飲酒)となっている。
岩崎氏は同剤について、高い発作抑制効果があり、焦点てんかんの単剤もしくは併用療法としての重要な選択肢となるとし、発作の多い患者における速やかな発作抑制に有用としたほか、副作用が少なく「続けられる薬剤」であることから、レベチラセタムが継続できなかった患者に対する代替薬としても有用なのではないかと話した。
■参考
1)日本てんかん学会編. てんかん専門医ガイドブック 改訂第2版. 診断と治療社;2020.
2)
DeLorenzo RJ, et al. Neurology. 1996;46:1029-1035.
3)
Mohanraj R, et al. Eur J Neurol. 2006;13:277-282.
4)
Jin K, et al. Epilepsy Behav. 2022;134:108841.
5)
Tanaka T, et al. Brain Behav. 2021;11:e2330.
6)
独立行政法人国立病院機構静岡てんかん・神経医療センター「てんかん情報センターQ&A」
7)
日本神経学会監修.てんかん診療ガイドライン2018.
8)
EP0083試験(ClinicalTrials.gov)
(ケアネット 遊佐 なつみ)