本邦では、心不全患者に五苓散が用いられることがあるが、そのエビデンスは症例報告などに限られている。そこで、磯貝 俊明氏(東京大学大学院医学系研究科 ヘルスサービスリサーチ講座/東京都立多摩総合医療センター)らの研究グループは、DPCデータを用いた後ろ向き研究により、心不全に対する標準治療への五苓散併用の有用性を検討した。その結果、五苓散を併用しても1年以内の心不全による再入院リスクは低下しなかったが、腎疾患を有する患者では、再入院リスクが低下することが示唆された。Journal of Cardiology誌オンライン版2024年9月26日号掲載の報告。
本研究は、日本全国の急性期病院から収集されたDPCデータを用いて実施した。対象は、2016年4月~2022年3月の期間に心不全により初回入院し、心不全に対する標準治療を受けた後に退院した患者43万1,393例とした。対象患者を退院時の薬物療法に基づき、標準治療に五苓散を併用した群(併用群)と標準治療のみの群(非併用群)に分類し、1対4の傾向スコアマッチングを行った。主要評価項目は、1年以内の心不全による再入院とし、主要な副次評価項目は、1年以内の心不全による再入院と再入院中(入院理由は問わない)の死亡の複合とした。
主な結果は以下のとおり。
・対象のうち、五苓散が処方されていた割合は0.45%(1,957例)であった。
・傾向スコアマッチング後、併用群は1,957例、非併用群は7,828例となった。
・傾向スコアマッチング後、主要評価項目である1年以内の心不全による再入院が発生した割合は、併用群が22.1%、非併用群が21.8%であり、両群間に有意差はみられなかった(ハザード比[HR]:1.02、95%信頼区間[CI]:0.92~1.13)。
・主要な副次評価項目の1年以内の心不全による再入院と再入院中(入院理由は問わない)の死亡の複合が発生した割合は、併用群が24.8%、非併用群が24.5%であり、こちらも両群間に有意差はみられなかった(HR:1.01、95%CI:0.92~1.12)。
・1年以内の心不全による再入院についてサブグループ解析を実施したところ、五苓散の併用の有無と腎疾患の有無には交互作用が認められた(p for interaction=0.009)。
・腎疾患を有する患者集団において、1年以内の心不全による再入院が発生した割合は、併用群が22.3%であったのに対し、非併用群は28.1%であり、併用群でリスク低下がみられた(HR:0.77、95%CI:0.60~0.97)。
(ケアネット 佐藤 亮)