乳がんにおけるADCの使いどころ、T-DXdとSGを中心に/日本癌治療学会

提供元:ケアネット

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公開日:2024/11/07

 

 現在、わが国で乳がんに承認されている抗体薬物複合体(ADC)は、HER2を標的としたトラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)とトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)、TROP2を標的としたサシツズマブ ゴビテカン(SG)の3剤があり、新たなADCも開発されている。これら3剤の臨床試験成績と使いどころについて、国立がんセンター東病院の内藤 陽一氏が第62回日本癌治療学会学術集会(10月24~26日)におけるシンポジウム「明日からの乳癌診療に使える!最新の薬剤の使いどころ」で講演した。

開発が進むADC、現在3剤が承認

 内藤氏はまず、「ADCは次々と開発が進んでおり、現在3剤が承認されているが、今後も新薬の登場や適応追加が予想される」と述べ、“明日から”というより“明日まで”使える内容と前置きした。

 現在承認されている3剤の適応は、T-DM1がHER2+乳がん、T-DXdがHER2+乳がんおよびHER2低発現乳がん、SGがトリプルネガティブ(TN)乳がんである。T-DXdはさらにHER2超低発現乳がんにおける有効性が示され、SGは海外でHR+乳がんにも有効性が示されていることから、今後適応が広がる可能性がある。

HER2+進行乳がん2次治療はT-DM1からT-DXdに

 HER2+進行乳がんに対するT-DM1の第III相試験には、トラスツズマブ+タキサンの治療歴のある患者に対してカペシタビン+ラパチニブと比較したEMILIA試験、3次治療以降で医師選択治療(TPC)と比較したTH3RESA試験が挙げられる。どちらも全生存期間(OS)の有意な改善が示されたことから、トラスツズマブ+タキサン後の2次治療以降の標準治療となったが、現在は以下のようにT-DXdに塗り替えられた。

 T-DXdは、トラスツズマブ+タキサンの治療歴がある患者に対してT-DM1と比較したDESTINY-Breast03試験、T-DM1治療歴のある患者に対してTPCと比較したDESTINY-Breast02試験があり、どちらもOSの有意な改善が認められた。一方、同じ2次治療として、トラスツズマブ+タキサンの治療歴のある患者に対してT-DM1+tucatinibをT-DM1と比較したHER2CLIMB-02試験があり、無増悪生存期間(PFS)の有意な改善が認められた。試験間での比較は適切ではないものの、ハザード比(HR)はHER2CLIMB-02試験では0.76(95%信頼区間[CI]:0.61~0.95)とDESTINY-Breast03試験の0.33(同:0.26~0.43)とは大きな差があり、脳転移症例に対してどちらも効果が認められること、tucatinibは現在日本では承認されていないこともあり、T-DXdがHER2+進行乳がんの2次治療の標準治療となっている。NCCNガイドラインでも2次治療にはT-DXdのみが記載されている。

HR+進行乳がんには現在T-DXdのみ、開発中の薬剤も

 HR+進行乳がんでは、HER2低発現乳がん(IHC2+/ISH-またはIHC1+)とHER2超低発現(IHC0で染色細胞が10%以下存在)にT-DXdの有効性が認められ、現在はHER2低発現乳がんに対してのみ、2次治療以降で承認されている。

 SGについても、2~4ラインの治療歴のあるHR+/HER2-進行乳がんを対象としたTROPICS-02試験において、TPCに比べてPFSおよびOSの改善が報告されている(日本ではHR+進行乳がんには未承認)。さらにTROP2を標的としたdatopotamab deruxtecan (Dato-DXd)が開発中である。すでにSGが承認されている米国のNCCNガイドラインでは、HR+進行乳がんの2次治療として、HER2低発現ではT-DXd、それ以外はSGと記載されている。

TN乳がんに対するT-DXdとSGの試験成績

 TN乳がんに対するADCとしては、T-DXdとSGが承認されている。T-DXdについては、HER2低発現進行乳がんに対するDESTINY-Breast04試験において、HR-症例のみの解析でPFS、OSとも良好な結果であったが、症例数は58例(T-DXd群40例、TPC群18例)と少ない。一方、SGのTN乳がんに対するASCENT試験は529例と症例数が十分に多く、PFSのHRは0.41(95%CI:0.32~0.52)、OSのHRは0.48(同:0.38~0.59)と良好な結果が示されている。NCCNガイドラインでは、TN乳がん2次治療においてSGが上に記載されており、生殖細胞系列BRCA1/2病的バリアントなしかつHER2低発現にはT-DXdと記載されている。

 内藤氏は、ADCにおけるもう1つの問題として、ADC後のADCは効果が低い可能性があるという報告がなされていることから、「ADC後に何を投与するかということが今後の課題」と述べた。

わが国における現時点のADCの使いどころは?

 最後に内藤氏は、日本における2024年10月時点のADCの使いどころについてまとめた。

 まず、HER2+進行乳がんでは2次治療にT-DXd、3次治療以降にT-DM1が入る。HR+進行乳がんでは2次治療にT-DXd(HER2低発現)のみ入っているが、「今後、SG、Dato-DXdが承認されたときにどれを使うかは今後の議論」とした。TN進行乳がんでは2次治療にSGとT-DXd(HER2低発現)が入るが、ベネフィットの大きさにはあまり遜色ないと述べた。また、これらの注意すべき有害事象のマネジメントについて、SGでは好中球減少が比較的多いためG-CSF投与などのマネジメント、T-DXdではILDのマネジメントを挙げ、講演を終えた。

(ケアネット 金沢 浩子)