双極症は、躁/軽躁状態と抑うつ状態の間での気分変動を特徴とする精神疾患である。双極症には、シナプス遺伝子のエクソン領域と重複するまれな病原性遺伝子コピー数変異(CNV)と関連している。しかし、双極症に関連するシナプス遺伝子のCNVを包括的に調査した研究は、これまでになかった。名古屋大学の中杤 昌弘氏らは、エクソン領域に限定せず、日本人集団におけるシナプス遺伝子と重複するまれなCNVと双極症との関連を評価した。Psychiatry and Clinical Neurosciences誌オンライン版2024年10月15日号の報告。
双極症患者1,839例、対照群2,760例を対象に、アレイ比較ゲノムハイブリダイゼーション(aCGH)を用いて、CNVを検出した。シナプス遺伝子と重複するまれなCNVを特定するため、シナプス遺伝子オントロジー(SynGO)データベースを用いた。遺伝子ベース解析を用いて、双極症患者と対照群における頻度を比較した。双極症に関連するシナプス遺伝子セット解析を行った。有意水準は、偽陽性率(false discovery rate:FRD)を10%に設定した。
主な結果は以下のとおり。
・RNF216遺伝子と双極症との有意な関連が認められた(オッズ比:4.51、95%信頼区間:1.66〜14.89、FRD<10%)。
・RNF216遺伝子に対応する双極症関連CNVは、7p22.1微小重複症候群において原因と考えられている領域(minimal critical region)と一部重複していた。
・さらに、遺伝子セット解析を行い、シナプス後膜の不可欠な構成要素にかかわる遺伝子群が双極症と関連することも発見した。
・GRM5遺伝子のイントロン領域と重複するCNVは、双極症患者と対照群との間で有意な関連が認められた(p<0.05)。
著者らは「本検討により、RNF216遺伝子およびシナプス後膜関連遺伝子のCNVと双極症リスクとの関連が示唆された」とし「ゲノム解析の結果を活用することで、双極症の病態解明や個別化医療の実現に寄与することが期待される。将来、早期のリスク評価と予防的介入により、患者のQOL向上につながる可能性がある」と結論付けている。
(鷹野 敦夫)