大腸がん治療における国際標準と日本の現状・・・日本における術後補助化学療法のcontroversy

提供元:ケアネット

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公開日:2009/06/17

 

 2009年6月11日、コンラッド東京にて「大腸がん治療における国際標準と日本の現状」と題して開催された株式会社ヤクルト本社によるプレスセミナーについて、2回に分けてお届けする。

 国立がんセンター東病院臨床開発センターの大津敦氏(写真)は、StageIII大腸がんに対するFOLFOXによる術後補助化学療法(わが国では申請中)について、主に内科医と外科医の間で議論のあるところと述べる一方、自施設ではStageIIIbとStageIV(肝または肺切除後)については、ほとんどの症例でFOLFOXによる術後補助化学療法を実施していることを紹介した。

 大津氏は、まず、切除不能進行大腸がんに対する薬物療法について、有効薬剤の増加により生存期間が大幅に延長され、かつては0~1%程度であった5年生存率(OS)がFOLFOX4では9.8%になっていることや、初回治療としてはFOLFOX/FOLFIRI+ベバシズマブが一般的であること、さらにドラッグラグは消失しつつあることを述べた。また、最も多く実施されているFOLFOXレジメンについて、自施設の消化器内科においてFOLFOXとFOLFOX+ベバシズマブで2,198件と約4割を占めていること、さらにSAE(副作用による緊急入院)の発生が1件もないことを紹介した。

 次に、大腸がん術後補助化学療法の現状について、欧米ではFOLFOXによる術後補助化学療法がStageIIIおよび高リスクのStageII結腸がんに対し一般的になっているのに対し、日本では、StageIII大腸がん補助化学療法の実施について、2つの考えに分かれて議論されていると述べた。

 大津氏は、その議論の背景として、日本では結腸がんにおける術後補助化学療法におけるFOLFOXの位置付けを示した試験がなく、ヨーロッパで実施されたMOSAIC試験(FOLFOX vs 5FU/LV 、StageII/IIIを対象)での6年OSの4%の差をどう考えるか、また、欧米に比べて日本の手術成績のほうが10%程度良好であるが、その理由には様々な要素があることから一概に手術成績が良いかどうかは不明であり、また、国内でも全がん協加盟施設のなかでさえ施設間にバラつきがあることを紹介した。

 これらの背景から、主に外科医による「日本の手術成績は欧米より良好であり、海外の術後補助化学療法の試験結果は受け入れられない、4%のOS延長のベネフィットより約10%のGrade2の神経毒性を重視する」という意見と、主に内科医による「10%程度の手術成績の差は国別成績を出せば存在する範囲であり、海外の試験結果を積極的に受け入れるべきである、約10%のGrade2の神経毒性より4%のOSのベネフィットのほうを優先すべき」という意見に分かれて議論されているとのことである。

 なお、約10%というFOLFOXの神経毒性については、アジア人での耐容性を確認するために実施された多施設共同オープン試験(MASCOT試験、StageII/III結腸がんを対象)において、Grade3以上の末梢神経障害はMOSAIC試験の12.4%に比べ0.8%と低く、欧米人に比較してアジア人では軽度であることが報告されている。

 最後に、自施設のFOLFOXによる術後補助化学療法の適応における基本コンセンサスについて、「当院では術後補助化学療法をすべて内科で実施しているということもあるが、手術成績が70%以下であるStageIIIbとStageIV(肝または肺切除後)については、あくまで患者さんに毒性と効果を伝えて希望に沿って決定することを前提として、ほとんどの症例で実施している」と紹介し、講演を終えた。

(ケアネット 金沢 浩子)