歌うことが、脳卒中により失語症を患った患者のコミュニケーション能力の回復に有効なようだ。ヘルシンキ大学(フィンランド)のAnni Pitkaniemi氏らが実施した新たな研究で、歌うことをベースにした集団で行うリハビリテーション(以下、リハビリ)により、失語症のある脳卒中慢性期の患者のコミュニケーション能力や発話能力が改善し、社会活動を増加させることが明らかになった。この研究の詳細は、「Brain Communications」に12月27日掲載された。
失語症では、脳の外傷が原因で、話し言葉や書き言葉を伝えたり理解したりすることが困難になる。脳卒中後の患者の約40%が失語症を発症し、その約半数では脳卒中から1年が経過してもこの症状が続く。失語症は、脳卒中患者の機能能力や生活の質(QOL)に広範な影響を及ぼすため、失語症が原因で社会的に孤立してしまう患者も珍しくない。
Pitkaniemi氏らは、慢性期失語症患者54人とその介護をする家族43人を対象に、歌をベースとした集団リハビリプログラムが患者のコミュニケーション能力や発話能力、社会情緒的能力、および介護者のウェルビーイングに与える影響について検討した。研究グループによると、これまでの研究で、重度の失語症患者でも、歌う能力は維持されていることが明らかにされていたが、失語症のリハビリに歌唱、特に合唱を利用することについてはあまり研究されていなかったという。
対象者はランダムに2群に分けられ、各群が、通常のケアに加えて4カ月にわたる歌による介入を、試験期間の前半か後半に受けた。歌による介入は、合唱、メロディックイントネーション療法(MIT)などの集団リハビリと、自宅でのタブレットを用いた歌唱トレーニングから成るものだった。MITは、メロディとリズムを用いて徐々に歌から発話への移行を目指す治療法で、失語症のリハビリにある程度利用されている。集団リハビリは週に1回、訓練を受けた音楽療法士と合唱指揮者の指導下で行われた。
その結果、通常のケアに比べて歌による介入により、試験開始から5カ月後のコミュニケーション能力と受け答えする能力が改善したことが明らかになった。この改善は9カ月後でも維持されていた。また、歌による介入は、患者の社会参加を増大させた一方で、介護者の負荷を軽減させたことも示された。
論文の筆頭著者である同大学のSini-Tuuli Siponkoski氏は、「介護者にもリハビリに参加してもらい、その心理的ウェルビーイングを評価したのは、今回の研究が初めてだ」と述べている。
これまでの歌唱療法は、一般的に個別に行われていたが、研究グループは今回の結果を受け、失語症に対するリハビリの一部として歌をベースとするグループトレーニングを取り入れることを提唱している。また、Siponkoski氏は、「発話の訓練に加え、集団でリハビリを行うことによって、患者と家族の双方が同じ立場の人と助け合う絶好の機会を得られる」と述べている。
[2023年1月3日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら