血中のDNA断片を用いたがん検査、低コストで簡便な検査法として有望

提供元:HealthDay News

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公開日:2023/02/13

 

 複数の種類のがんを、他の検査法よりも簡便かつより安価に検出できる血液検査の開発に向けて、研究が前進した。米ウィスコンシン大学のMuhammed Murtaza氏らが開発したこの検査法は、予期せぬ場所で「壊れた」ように見えるDNAの断片を測定するというシンプルな方法で特定のがんのシグナルを検出するものだ。この方法により、現在開発中の他のがんの血液検査法よりも少ない量の血液検体で、11種類のがんのいずれかがある人と、がんのない人を高い精度で判別できたという。この研究結果は、「Science Translational Medicine」1月11日号に掲載された。

 この研究は、複数の種類のがんについてワンストップでスクリーニングできる血液検査の開発に向けたさまざまな取り組みの中では最新のものの1つである。これらの検査法はいずれも、血液中に存在する腫瘍由来の遺伝物質を利用する点で共通している。このような血液検査は、現在は有効なスクリーニング手段のない種類のがんを含めたさまざまながんの発見につながる、簡便なスクリーニング方法となる可能性を秘めている。

 では、開発中のこれらの検査法の違いは何なのか。Murtaza氏によると、「厳密に言うと、何を測定するのかが検査法ごとに異なっている」と言う。同氏らが報告した検査法は、DNAの断片であるセルフリーDNA(cfDNA)のパターンを分析するものだという。cfDNAとは、細胞が細胞死を起こす際に血中に放出されるDNA断片で、正常細胞からもがん細胞からも放出される。研究グループは、がん細胞と正常細胞とでは遺伝子発現パターンが異なるため、cfDNAが切り離される位置も異なっているとの仮説を立て、血液中のDNA断片末端と分離部位周辺のシーケンシングを行った。同氏によると、この「シンプルな方法」によって限られたDNAしか含まれていない少量の血液検体でも検査が可能になるという。

 Murtaza氏らは、521人分の血液検体のゲノムワイド関連解析と、別の2,147件の検体のゲノムシークエンシングデータの解析も行った。これらの検体は、乳がんや卵巣がん、メラノーマ、胆管がん、膠芽腫などを含む11種類のがん患者と健康な人から採取したものだった。この解析結果を基に、がん細胞に由来するDNA断片の分離部位の違いなどに基づく指標を作成。この指標と分離部位周辺のゲノムの配列データを用いて、健康な人の検体との比較でがんの有無を判別する機械学習モデルを作成した。

 その結果、この機械学習モデルのがんの有無の判別精度は高く、スクリーニング検査で特に有用とされる早期がんの判別精度も高いことが示された。検査精度の指標の一つであるAUC(ROC曲線下面積、0〜1で表され、1に近いほど鑑別力が高い)は、全てのがんに対する検査で0.91、ステージ1のがんに対する検査で0.87であった。

 ただしMurtaza氏は、「今後さらなる研究が必要」との見解を示している。また、次の段階では、複数の種類のがんではなく1種類のがんに絞ってこの検査法の検出能を調べることになると説明。その候補として、現時点でスクリーニング検査法がない膵臓がんを挙げている。

 今回の研究には関与していない、米ニューヨーク大学パールムッターがんセンターのDavid Polsky氏は、「これは、他の検査法よりも少しシンプルで、コストも抑えられる可能性のあるアプローチの一つと言える」と話す。ただ、「実際に導入できる段階には至っていない」とも付け加えている。

 Polsky氏はまた、健康な人を対象としたがんのスクリーニング検査の性能の重要な指標として、がんがある人を正確に判別する「感度」と、がんがない人を正確に判別する「特異度」を挙げている。特に特異度に関しては、低いと偽陽性判定が増え、不要なフォローアップ検査の増加や患者の不安増大につながるため重要だと説明している。

[2023年1月12日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら