これまで主として1型糖尿病の治療目的で研究開発が続けられている完全クローズドループインスリンポンプが、2型糖尿病患者の血糖コントロール改善にも役立つことを示す研究結果が報告された。英ケンブリッジ大学のCharlotte Boughton氏らの研究によるもので、詳細は「Nature Medicine」に1月11日掲載された。インスリン注射療法に比べて、血糖値が目標範囲内にある時間が長くなり、低血糖を増やすことなくHbA1cが低下したという。
インスリンは、全身の細胞で血糖をエネルギー源として利用する際に必要なホルモンであり、膵臓で産生されている。1型糖尿病は、膵臓のインスリン産生が絶対的に不足する病気。それに対して2型糖尿病は、膵臓のインスリン産生が少ないか、インスリンが作用する細胞の感受性が低下しているかのいずれか、または両方によって、インスリンが相対的に不足する病気。1型糖尿病患者は生存のためにインスリン療法が必須であり、2型糖尿病では一部の患者が血糖管理のためにインスリン療法が必要となる。
インスリン療法は一般的にはインスリン注射によって行われるが、1型糖尿病患者では必要なインスリンを自動的に注入し続けるインスリンポンプ療法も行われる。このポンプ療法は、インスリン療法の絶対的適応である1型糖尿病の治療法とされてきた。しかしBoughton氏によると、「2型糖尿病患者も2~3割はインスリン療法を行っている」といい、今回の研究から、「完全クローズドループシステムのインスリンポンプは、2型糖尿病の治療において、インスリン注射よりもはるかに効果的であることが示された」とのことだ。
1型糖尿病の患者が現在使っているクローズドループのインスリンポンプは、インスリンの必要量が急上昇する食事に合わせて投与量を調整するため、食事のタイミングや食べる量を患者自身が入力して設定するタイプが主流。それに対して今回の研究では、そのような必要のない完全クローズドループシステムと呼ばれるインスリンポンプが用いられた。このシステムでは、血糖センサーから得られる血糖変動の情報を基に、アルゴリズムによってインスリンの必要量が判断され、その量が自動的に投与される。患者は必要に応じて、スマホで血糖値を確認したり設定を変更する。
この研究の解析対象は、2型糖尿病患者26人〔平均年齢59±11歳、女性27%、BMI35.3±8.6、糖尿病罹病歴17.5±8.2年、インスリン療法歴8.5±6.9年、HbA1c9.0±1.4%、インスリン投与量の中央値0.70U/kg(四分位範囲0.54~1.31)〕。研究デザインはクロスオーバー法で、全体の半数は先に完全クローズドループシステムを用いた治療を8週間継続、残りの半数は先に、それまで通りインスリン注射による治療を実施。2~4週間のウォッシュアウト期間を置いて割り付けを切り替え、それぞれの治療を8週間継続した。
その結果、血糖値が70~180mg/dLの範囲にあった時間の割合は、完全クローズドループ条件で66.3%、インスリン注射条件で32.3%、平均血糖値は同順に165.6mg/dL、226.8mg/dL、HbA1cは7.3%、8.7%であり、いずれも完全クローズドループ条件の方が有意に良好だった(全てP<0.001)。低血糖(70mg/dL未満)の時間の割合は0.44%、0.08%であり、有意差がなかった(P=0.43)。
研究期間を通して重症低血糖(血糖値が40mg/dL未満、または他者の助けを必要とする状態)は発生しなかった。完全クローズドループ条件では、デバイスの問題が5人(6件)発生した。
これらの結果を総括してBoughton氏は、「完全クローズドループシステムの利用による血糖コントロールの改善は、網膜症、腎臓病、下肢切断などの糖尿病合併症のリスクを低下させる可能性がある。ただし、実際にそのような変化が現れるか否かは、大規模な長期間の研究が必要」と述べている。同氏は、「2型糖尿病の患者数は世界的に増加しており、かつ若年期での発症が増え、罹病期間が長期化している。インスリン療法が必要となった2型糖尿病患者は、誰でもこのシステムの恩恵を得ることができる」とも話している。
もっとも、従来のインスリン注射と指先穿刺による血糖測定での治療に比べて、この治療法はコストが増大する。米ノースカロライナ大学チャペルヒル校のJohn Buse氏によると、「現時点では、デバイス、消耗品、インスリン、およびサポート体制のために、年間約1万ドルかかる。ただ、このコストは時間の経過とともに低下していく」と説明する。同氏はまた、「血糖変動の少ない良好なコントロールによって、失明、腎不全、下肢切断、心臓発作、脳卒中などの合併症が減り、高血糖や低血糖による緊急入院の頻度も抑制されるだろう。さらに、感染症や認知機能の低下を含む、糖尿病に伴う多くの重要な健康障害のリスクも低下する可能性がある」と述べている。
[2023年1月13日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら