記憶力の低下は認知症で見られる最も一般的な症状だが、認知症の初期にそれが現れた人は、ほかの症状が初期に現れた人よりも、その後の進行が緩やかであるとする研究結果が報告された。米クリーブランド・クリニック脳の健康センターのJagan Pillai氏らの研究によるもので、詳細は「Alzheimer's & Dementia」に12月20日掲載された。
Pillai氏は、「文章を書いたり、計画を立てたり、問題を解決したり、空間や距離を把握したりする能力の低下が認知症の初期に現れた人に比べて、記憶力の低下が最初の症状だった人は、認知機能の低下速度がわずかに遅い。今後の研究により、初期症状によってその後の経過を予測できることが証明されたなら、患者やその家族が将来への備えを考える際に有用な情報となるだろう」と述べている。
Pillai氏らはこの研究に、米国アルツハイマー病コーディネーティングセンター(NACC)のデータベースを用いた。NACCのデータベースには、1984年開始以来、多数の患者データが登録されている。
死亡後の病理解剖所見でアルツハイマー型認知症だったと診断された症例が1,187人、レビー小体型認知症と診断されたのが331人、両者の混合型認知症が904人、計2,422人を解析対象とした。最初の医療機関受診から病理解剖までの期間は平均5.5±2.8年だった。年齢、性別、教育歴、ベースライン時の重症度(CDR-SB)、遺伝素因(ApoE4)を調整後、初期症状によってその後のCDR-SBスコアの上昇(重症化)の速度が異なることが分かった。
まず、初期症状が言語機能の低下だった人は、3タイプ全ての認知症で、初期症状が記憶力低下だった人よりも、CDR-SBスコアの上昇速度が有意に速かった。次に、初期症状が実行機能の低下だった人は、アルツハイマー型認知症と混合型認知症の場合、初期症状が記憶力低下だった人よりも、CDR-SBスコアの上昇速度が有意に速かった。続いて初期症状が視空間認知機能の低下だった人は、混合型認知症の場合、初期症状が記憶力低下だった人よりも、CDR-SBスコアの上昇速度が有意に速かった。
この研究報告に関連して、米マウントサイナイ・アルツハイマー病研究センターのMary Sano氏は、「臨床医にとって、認知症の診断は常にいくらかの躊躇を伴うものだ。初期症状に基づいて今後の見通しを診断とともに伝えられることのメリットは少なくない」と語っている。
なお、初期症状とその後の経過との関連のメカニズムについてPillai氏は「わからない」としながらも、一つの可能性として、「初期症状による実生活への影響の程度が異なることが、進行速度の差につながるのかもしれない」としている。「記憶力が低下したとしても、しばらくは自分自身で生活を続けることができる。それに対して言語機能や実行機能、視空間認知機能が低下すると、1人でできることはかなり制限されてしまい、日常生活に影響が生じやすい」とのことだ。この考え方には米アルツハイマー病協会のClaire Sexton氏も同意。「言語能力と実行機能がある程度保持されていれば、総合的な認知機能の低下が抑制される可能性がある」としている。
Pillai氏は、初期症状による進行速度の差異が、認知症治療薬の臨床試験の結果に影響を及ぼす可能性も指摘している。「今後実施される臨床試験では、初期症状が記憶力低下の患者とそうでない患者が、実薬群とプラセボ群に均等に割り付けられたかを確認するステップが必要ではないか」と述べている。
[2023年1月25日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら