8月のある日曜日の朝、米国カリフォルニア州に住む87歳の女性、Barbara Bartelsさんは、自宅近くのカフェで友人とコーヒーを飲んでいた。彼女はミクストメディアアーティスト(複数の素材を組み合わせた作品を創造する芸術家)だが、自分自身のことを“隠者”と呼び、アーティスト仲間以外との交流はほとんどなかった。
そんなBartelsさんは元ファッションデザイナーでもあり、自分の身体的・精神的健康をよく気遣っていた。毎日ヨガを続けていたし、最近は気功も始めた。かつて、多くのアーティストがそうであったように、彼女も以前は喫煙者だったが50代前半で禁煙した。唯一の気がかりは体質的なものによる高血圧で、降圧薬を服用していた。
カフェでの友人との会話の最中、自分が口にしている言葉が意味をなしていないことに気付いた。脈絡のない言葉が口をついて出てきて、支離滅裂だった。心配になった友人は、Bartelsさんの携帯電話の「お気に入り」リストの最初の番号に電話をした。電話に出たのはBartelsさんの姪だった。
状況を聞いたBartelsさんの姪は、「すぐに119番に通報して」と頼んだ。友人は「本当に必要? 家に帰って休めば治るのでは?」と確認したが、言葉をスムーズに話せないという症状が脳卒中によって起きることを知っていた姪は、「すぐに救急要請を」と再度頼んだ。
Bartelsさんは、確かに脳卒中を起こしていた。友人の的確な行動のおかげで、血栓溶解薬を使える時間内に病院に搬送され、治療された。病院に駆けつけた娘や親戚に対して医師は、「専門施設での集中的なリハビリテーションに、数カ月とは言わないまでも、数週間を要するのではないか」と語った。ところが麻酔から目を覚ましたBartelsさんは、歩くことも話すこともでき、麻痺も認知障害も起きていなかった。
3日後に退院し帰宅。医師は筋肉を強化するために外来リハビリテーションを勧めたが、彼女は「自宅で運動する」というアイデアに固執した。家族にはそのアイデアが正しいものとは思えなかった。医師が語った「数週間の専門的なリハビリが必要」との言葉と大きく異なるし、脳卒中後の高齢者の状況は悲惨なものだと信じ込んでいたからだ。
「お母さんは脳卒中になったのよ。誰かがいつも見守っていないと」と娘は語り、介護施設への入所を勧めた。これに対して、30歳で離婚し、子どもが親元を離れてからは自分一人で全てに対処してきたBartelsさんはこう答えた。「ちょっと待って。私がこれからどれだけしっかりやっていけるか見ていてほしい。私にはできるはず」。
この家族の会話を、Bartelsさんのアーティスト仲間で長年の友人であるAndrea Borsukさんが、たまたま横で聞いていた。Borsukさんは、自分と同世代の高齢者が自立した生活を続けたいと主張することを、素晴らしいことだと感じた。その考え方は、かつてBorsukさんの90歳になる母親を介護施設に入所させるべきか否かをBartelsさんに相談した時、Bartelsさんが語った考え方だった。結局、BartelsさんとBorsukさんの主張を家族は受け入れた。しばらくの間、Bartelsさんの仲間の誰かが毎日彼女の自宅を訪問し、しっかり生活できているか、異常がないかを確認することにした。そのためBorsukさんは、アーティストグループで共用するオンラインのスケジュール帳を作成した。
それからというもの、日々、Bartelsさんのもとを友人や近所の人たちが交代で訪ね、食事の準備をしたり用事を代行するようになった。Borsukさんは、「心配してくれる多くの人々に囲まれて生活していることが、彼女のモチベーションを高めたに違いない」と語る。
一方、Bartelsさんは、医師が当初語った彼女の回復に関する悲惨な予測を、その後も修正しようとしないことにフラストレーションを感じていた。彼女がどれだけうまくやっているかを見て、医師が早期に見通しを修正していたなら、Bartelsさんの家族も「高齢者が脳卒中になったら回復しない」という思い込みを、早いうちに捨てていただろうと彼女は振り返る。
Bartelsさんの考え方の正しさは、その後の事実が物語っている。脳卒中から6週間後、医師は彼女に運転を許可した。6カ月がたち、彼女は今、よりエネルギッシュに、強くなったと感じている。「ただ、自分自身にプレッシャーもあった。私は自分が言った通りに回復可能であることを、子どもたちに証明しなければならなかったのだから」とBartelsさんは語っている。
[2023年1月26日/American Heart Association] Copyright is owned or held by the American Heart Association, Inc., and all rights are reserved. If you have questions or comments about this story, please email editor@heart.org.
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