「健康のために1日1万歩を」とよく言われるが、「毎日1万歩など無理」という高齢者も少なくないだろう。しかし、70歳以上の人を対象とした新たな研究から、それよりはるかに少ない歩数であっても心臓の健康に良い可能性のあることが分かった。1日3,000歩でもよく、さらに500歩増やすだけでも大きな違いが生じる可能性があるという。米アラバマ大学のErin Dooley氏らが、米国心臓協会(AHA)の生活習慣科学セッション2023(EPI2023、2月28日~3月3日、ボストン)で発表した。
Dooley氏らはこの研究で、一般住民のアテローム性動脈硬化リスク因子に関する大規模疫学研究「ARICスタディ」の参加者のうち、1日10時間以上の加速度計の記録が3日以上ある、70歳以上の高齢者452人(平均年齢78.4歳、女性59%)を解析対象とした。1日の歩数は平均3,447±1,796歩だった。
3.5年(1,269人年)の追跡で、34人(7.5%)に心血管イベント(冠状動脈性心疾患、脳卒中、心不全)が発生した。最も歩数の少ない第1四分位群(2,077歩/日未満)のイベント発生率は11.5%、最も歩数の多い第4四分位群(4,453歩/日以上)は3.5%だった。年齢、性別、BMI、人種、教育歴、加速度計の装着時間で調整後、第4四分位群のイベントリスクは第1四分位群より77%低いことが示された〔ハザード比(HR)0.23(95%信頼区間0.07~0.83)〕。
Dooley氏は、「身体活動は、心臓の健康に関連するあらゆるリスク因子を抑制するために、非常に大切だ。血糖値や血圧のコントロールに役立ち、体重管理につながる。また、ウォーキングはストレス解消にも最適であり、さらに高齢者にとっては骨の健康維持という点でも重要である」と解説。同氏によると、今回の研究では、1日の歩数が3,000歩を超える当たりから、心血管イベントのリスク低下が顕著になる傾向にあったという。なお、目標とする歩数を1回で達成する必要はなく、1日の中で何回かに分けて積み重ねて達成しても良いとのことだ。
それでもまだ、ウォーキングを始めることにためらいがあるという高齢者がいるかもしれない。そのような人に対してDooley氏は、「まず500歩増やすことからスタートしてみては?」と提案する。このアドバイスは、今回の研究で1日の歩数が500歩多いごとに、心血管イベントリスクが14%低下する〔HR0.86(同0.76~0.98)〕というデータが得られたことに基づくものだ。
本研究には関与していない、米シダーズ・サイナイ医療センター、シュミット心臓研究所のMichelle Kittleson氏は、「これは素晴らしい結果だと思う。観察研究であるため見つかったメリットの解釈には注意が必要だが、少なくとも運動に有害性はないだろう」と論評。また同氏によると、習慣的に運動を続けることが、心臓の状態をチェックすることにもつながるという。以前と同じような運動をしているのに、何か気になることが起きるようになったとしたら、医師に相談することで、異常を早期に発見できるためだ。
今回の研究では、サイクリングや水泳など、研究参加者が行っていた可能性のあるウォーキング以外の運動量が考慮されていないことは、限界点として挙げられる。また今後の研究の方向性について研究者らは、毎日の歩数を増やすことで心血管イベントリスクを抑制できるのか、また、歩数の少なさが何らかの疾患の存在を示唆する指標となり得るのかという点の検証が必要としている。
なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものとみなされる。
[2023年3月2日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら