歯を失うと糖尿病に伴う認知機能低下に拍車がかかる可能性

提供元:HealthDay News

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公開日:2023/04/18

 

 糖尿病患者が歯を失うと、認知機能低下リスクがより上昇するかもしれない。その可能性を示唆する、米ニューヨーク大学ローリーマイヤーズ看護学部のBei Wu氏らの研究結果が、「Journal of Dental Research」に3月12日掲載された。この研究のみでは因果関係の証明にはならないが、強固な関連が認められるという。

 糖尿病が認知症のリスク因子の一つであることや、残っている歯の数が少ないほど認知症リスクが高くなることが知られている。ただし、糖尿病患者が歯を失うことにより認知症リスクがより高まるのか否かは明らかでない。Wu氏らはこの点について、同大学が行っている、就労や定年退職と健康に関する研究(Health and Retirement Study;HRS)のデータを用いて検討した。

 解析対象は、2006~2018年にHRSに参加登録された高齢者9,948人(65~74歳5,440人、75~84歳3,300人、85歳以上1,208人)。研究参加者は、ベースライン時と2年ごとに認知機能が評価され、糖尿病の有無および無歯症(歯が全くない状態)に該当するか否かで群分けし、認知機能が比較された。

 ベースライン時点でのデータの横断的な解析からは、糖尿病と無歯症が併存している84歳以下の高齢者は、それらが一つも該当しない同じ年齢層の高齢者(対照群)よりも、認知機能が有意に低下していることが分かった〔65〜74歳はβ=-1.12(95%信頼区間−1.56~−0.65)、75~84歳はβ=-1.35(同-2.09~-0.61)〕。

 縦断的な解析からも、糖尿病と無歯症が併存している65~74歳の高齢者は、対照群より認知機能の低下速度が速いことが分かった〔β=-0.15(-0.20~-0.10)〕。なお、糖尿病のみが該当する場合は、65~74歳で認知機能低下速度が対照群より有意に速く〔β=-0.09(-0.13~-0.05)〕、無歯症のみが該当する場合は、65~74歳〔β=-0.13(-0.17~-0.08)〕と75~84歳〔β=-0.10(-0.17~-0.03)〕で、認知機能低下速度が有意に速いことが示された。

 一方、85歳以上では、糖尿病と無歯症の併存による認知機能への有意な影響は観察されなかった。この理由について研究者らは、糖尿病と無歯症の両者が併存している場合、80代前半までに死亡する人が多いため、もしくは、この世代では糖尿病や無歯症の有無にかかわらず、認知機能が大きく低下している人が多いためではないかと推測している。

 今回の研究についてWu氏は、「これは観察研究であるため、因果関係について述べることはできない」とした上で、メカニズムに関して以下のような考察を述べている。まず、糖尿病、および歯を失う主要な原因である歯周病の病態には、ともに炎症が関与しており、さらに炎症は認知機能の低下の一因である可能性が指摘されているという。また、そのほかのメカニズムとして、歯を失うことで食事の摂取量が減り栄養不良になりやすいことや、それに伴う低血糖の影響、あるいは歯周病を起こす一部の細菌が認知機能に影響を及ぼす可能性もあるとのことだ。「高齢者、特に糖尿病患者の歯科治療は非常に重要だ。米国糖尿病学会(ADA)も糖尿病患者の定期的な歯科検診を推奨しているが、この点についての認識をさらに高める必要がある」と同氏は語っている。

 本研究には関与していない米イェール大学のCyprien Rivier氏は、「糖尿病と歯周病は相互に影響を及ぼし、慢性的な炎症を起こすことが知られている。全身の慢性炎症と脳の白質という部分の変化に関連があることも示されている。口の中の健康は、全身の健康にとっても非常に重要な問題だ」と指摘。また「これらの関連性をより明確にするためにさらなる研究が必要ではあるものの、口の中の健康を維持・改善すること自体が明快で重要な目標であり、そのためのコストもほとんど発生しない」と述べている。

[2023年3月15日/HealthDayNews]Copyright (c) 2023 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら