温泉入浴の習慣がある人には高血圧が少ないことが明らかになった。国内最大規模の温泉郷を有する別府市市民を対象とする、九州大学別府病院内科の山崎聡氏らの研究によるものであり、結果の詳細は「Scientific Reports」に11月14日掲載された。入浴時間帯別に解析すると、夜7時以降に温泉に入る習慣のある人で、高血圧該当者率の有意な低下が観察されたという。
高血圧は日本の国民病とも言われるほど多い病気で、50歳以上の男性と60歳以上の女性の6割以上が高血圧に該当すると報告されている。一方、温泉入浴については古くからさまざまな健康上のメリットが報告されてきている。そこで山崎氏らは、2011年に別府で実施された、温泉入浴や疾患既往歴に関するアンケート調査の結果を用いて、温泉入浴と高血圧との関連を検討した。
このアンケートは、別府市民から無作為に抽出した2万人に対して回答協力を依頼。本研究ではそのうち65歳以上の高齢者1万428人の回答を解析対象とした。そのうち、高血圧の既往があると回答した人は4,001人(38.3%)だった。なお、調査時点で別府市に居住していた高齢者数は3万4,465人。
単変量解析の結果、85歳以上は有意に高血圧の該当者率が高く〔65~69歳を基準とするオッズ比(OR)1.460(95%信頼区間1.230~1.740)〕、女性は有意に低かった〔OR0.923(同0.852~0.999)〕。併存疾患との関連については、痛風(OR1.860)、脂質異常症(OR1.650)、脳卒中(OR1.620)、不整脈(OR1.610)、腎疾患(OR1.520)、糖尿病(OR1.460)の既往のある人では高血圧該当者率が有意に高かった。反対に、慢性肝炎(OR0.656)の既往者は該当者率が有意に低かった。がんやうつ病、虚血性心疾患、喘息、膠原病との関連は非有意だった。
温泉入浴の習慣との関連では、入浴時間が10~30分未満の群で高血圧該当者率が有意に低く〔10分未満を基準として10~19分はOR0.832、20~29分はOR0.765〕、30分以上では非有意だった。また入浴の時間帯については、13~19時に入浴する群では該当者率が有意に高く〔9時前に入る群を基準としてOR1.220〕、反対に19時以降に入浴する群では有意に低く(OR0.840)、9~13時に入る群は非有意だった。温泉の泉質については、高血圧該当者率と有意な関連のある泉質は特定されなかった。
続いて、単変量解析で有意だった因子を説明変数とする多変量解析を施行。その結果、高血圧該当者率に独立して関連する因子として、85歳以上〔65~69歳を基準としてOR1.410(95%信頼区間1.170~1.680)〕に加え、単変量解析で有意だった疾患既往歴は全て有意性が保たれていた。入浴習慣関連では、19時以降に入浴する群で有意に低いオッズ比が観察され〔OR0.850(同0.768~0.940)〕、入浴時間の長さや入浴頻度、温泉入浴歴などは非有意だった。
本研究について著者らは、疾患既往歴が自己申告によること、高血圧の治療の詳細が不明なこと、横断研究であり因果関係は不明であることなどの限界点を挙げている。その上で、「夜7時以降の温泉入浴は、高齢者の高血圧該当者率の低さと有意に関連している。高血圧治療における夜間の温泉入浴の有用性を検証する無作為化比較試験が期待される」と述べている。
[2022年12月19日/HealthDayNews]Copyright (c) 2022 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら