東北大学を中心に全国より457名の医師が参加して家庭血圧の適正な降圧目標値を検証した大規模無作為化比較試験HOMD-BP研究の最終結果が浅山 敬 氏によってまとめられ、Hypertension Research誌に発表された。この結果は8月16日に同誌のwebサイトにて「ADVANCE ONLINE PUBLICATION」として出版前に公開された。本研究では家庭血圧に基づき、125-134/80-84mmHgを降圧目標に薬物治療を強化していく通常コントロール群と、125/80mmHg未満を降圧目標とする厳格コントロール群のいずれかに無作為に分けられ、心血管イベントの発生を一次評価項目として実施されたが、厳格コントロール群で降圧目標に達した割合が有意に低く、両群間に一次評価項目で有意な差が認められなかった。
家庭血圧測定はある特定の1日だけでなく、長期間にわたり測定することが比較的簡単に行えるため、正確性、再現性、薬効評価などに期待が持てる。わが国では2005年においても臨床医の90%は患者に家庭血圧測定を勧め、高血圧患者の70%以上は家庭血圧計を所有している。しかし、現在のガイドラインの根拠となっている大規模臨床試験の結果は、すべて診察室血圧に基づいたものであり、家庭血圧の最適な降圧目標値の検証が求められていた。
そこで本研究は世界で初めて、家庭血圧計の測定値に基づき、降圧目標を定め、薬物治療を強化していく方法を採用し、最適な家庭血圧の降圧目標値と最適な初期薬物治療を検証するために、わが国で2001年より開始された。
本研究には457名の医師が参加し、3,518例の高血圧症例(家庭血圧の測定値が135-179/85-119mmHg)がエントリーされた。患者はまず、家庭血圧値125-134/80-84mmHgを降圧目標に薬物治療を強化していく通常コントロール群と、125/80mmHg未満を降圧目標とする厳格コントロール群のいずれか2群に無作為に割り付けられ、その後、初回治療としてACE阻害薬、ARB、Ca拮抗薬のいずれか3群に割り付けられ、2×3のマトリクスデザインによって研究が行われた。
主要評価項目としたエンドポイントは、心血管系疾患死、心筋梗塞、脳卒中のいずれかの発生とした。
主な結果は下記のとおり。
(1) フォローアップの中央値は5.3年。
(2) 厳格コントロール群は通常コントロール群に比べ、多くの降圧薬を処方していた。
厳格群=1.82剤 vs 通常群=1.74剤(P=0.045)
(3) 厳格コントロール群は通常コントロール群に比べ、家庭血圧の降圧度が大きかった。
〔収縮期血圧〕厳格群=22.7mmHg vs 通常群=21.3mmHg(P=0.018)
〔拡張期血圧〕厳格群=13.9mmHg vs 通常群=13.1mmHg(P=0.020)
(4) しかし、降圧目標達成率は厳格コントロール群で有意に低かった。
厳格群=37.4% vs 通常群=63.5%(P<0.0001)
(5) エンドポイントの発生率は両群で同程度であった。
厳格群=2.93例/1000例・年 vs 通常群=3.00例/1000例・年
ハザード比=1.02(95%信頼区間=0.59-1.77、P=0.94)
(6) 治療群間においてもエンドポイントの発生率に有意な差を認めなかった(P≧0.13)。
(7) ベースラインの収縮期血圧1標準偏差(=12.5mmHg)につき41%のリスクが上昇
フォローアップ終了時の収縮期血圧1標準偏差(=13.2mmHg)につき47%のリスクが上昇
(8) 収縮期血圧が131.6mmHg未満に到達することで、心血管イベントの5年発生リスクは
1%未満に抑制された。
本研究の結果から、実地臨床において家庭血圧を125mmHg未満に降圧することは困難であるものの、家庭血圧を130mmHg未満に降圧することにより、心血管イベントの5年発生リスクを1%未満に抑制できることが示された。
(ケアネット 藤原 健次)