新生児仮死は世界的に罹患率、死亡率が高く、患児、家族、そして社会全体にも大きな負担となり、転帰改善への取り組みが必要とされている。仮死性脳症をめぐっては、実験的に、体温を正常レベルより3~5°C低下させることで、脳損傷を減じ、仮死後の神経機能転帰を改善することが明らかになっているが、低体温療法が仮死性脳症を呈した新生児の神経学的転帰を改善するかどうかは明らかにされていない。英国インペリアル・カレッジ・ロンドンのDenis V. Azzopardi氏(ハマースミス病院)らのグループは、妊娠期間36週以上で、周産期の仮死性脳症を呈した生後6時間未満児を対象とする、低体温療法介入に関する無作為化試験を実施した。NEJM誌2009年10月1日号掲載より。
死亡、重度神経障害については有意差見られず
試験は、325例の乳児を、集中治療+72時間33.5℃への体冷却を実施した群(163例)と、集中治療のみの群(162例)を比較し行われた。
主要評価項目は、生後18ヵ月時点の、死亡または重度神経発達障害とした。副次評価は、神経学的転帰12項目、その他の有害転帰14項目が事前に特定され検討された。
結果、冷却群では死亡42例、重度神経発達障害が32例だったのに対し、非冷却群では死亡が44例、重度神経発達障害は42例だった(いずれも転帰相対リスク:0.86、95%信頼区間:0.68~1.07、P = 0.17)。
生存例の神経学的転帰の改善には有効か
一方で、冷却群では神経学的異常を伴わない状態での生存率が高く(相対リスク:1.57、95%信頼区間:1.16~2.12、P = 0.003)、生存例で体冷却が、脳性麻痺のリスク減少に結びついたことが確認された(同:0.67、0.47~0.96、P = 0.03)。
またInfant Development IIのベイリー乳幼児発達検査IIにおける精神発達指数(MDI)および運動発達指数(PDI)、脳性麻痺児の運動能力障害の重症度を評価する判別尺度(GMFCS)の各スコアも改善されていた(MDIとPDIのP = 0.03、GMFCSのP = 0.01)。
しかし、その他の神経学的アウトカム項目においては冷却群での有意な改善は認められなかった。有害事象の大半は軽度で、体冷却と関連するものは認められなかった。
これらの結果から研究グループは、周産期に仮死状態となった新生児に対する低体温療法の実施は、死亡また重度神経発達障害については有意に低下させることはなかったが、生存例における神経学的転帰の改善には結びついたと報告している。
(医療ライター:朝田哲明)