大統領が曝露したダイオキシンの体内動態を解明

提供元:ケアネット

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公開日:2009/10/15

 



現ウクライナ大統領ヴィクトル・ユシチェンコ氏は、大統領選挙期間中の2004年9月、突然の中毒症状をきたした。スイスGeneva大学病院皮膚毒物学のO Sorg氏らは、中毒の原因物質として2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin(TCDD)を同定し、その体内動態の調査結果とともに今後の対処のしかたについてLancet誌2009年10月3日号(オンライン版2009年8月5日号)で報告を行った。TCDDは、高脂溶性でほとんどあるいはまったく代謝されないため、ヒトにおける半減期は5~10年ときわめて長期に及ぶとされるという。

3年にわたりTCDDの代謝、排泄状況を調査




TCDDは、ユシチェンコ氏が2004年9月5日にキエフ市内で摂った夕食に含まれたと考えられた。12月末日時点における同氏の血清TCDD濃度は108,000pg/g lipid weightであり、これは一般健常人の5万倍以上に相当する。

その同定に3ヵ月以上の期間を要した理由として、研究グループは、急性の中毒症状を呈する患者においてはTCDDをルーチンに調査する規則がなかった点を挙げている。

研究グループは、TCDDを同定してその化学構造を解析し、3年にわたり血清サンプル、脂肪組織、糞便、皮膚、尿、汗中の濃度、排泄状況の調査を行った。測定には、ガスクロマトグラフィおよび高分解能質量分析装置が用いられた。

TCDD半減期は15.4ヵ月




解析サンプル中の未変化TCDDは、調査期間中に体内から排出されたTCDDの約60%に相当した。糞便、血清、尿からTCDDの2つの代謝産物(2,3,7-trichloro-8-hydroxydibenzo-p-dioxin、1,3,7,8-tetrachloro-2-hydroxydibenzo-p-dioxin)が同定された。

TCDD代謝産物が最も多く含まれたのは糞便であり、これがTCDD排泄の主要経路であった。体内からの毒素消失の98%が、TCDDとその代謝産物の排泄経路を通じてであった。ユシチェンコ氏のTCDD半減期は15.4ヵ月であった。

著者は、「今回のTCDD中毒の例は、代謝段階にあるTCDDの調査では、TCDD代謝産物をルーチンに評価するための方法論の策定が必要なことを示唆する」と結論している。

(菅野守:医学ライター)