無保険者が健康保険に加入することにより、高血圧治療を受ける患者が有意に増えるだけでなく、血圧コントロール率まで改善される可能性が、メキシコにおける横断的住民研究の結果、明らかになった。米国Johns Hopkins School of Public HealthのSara N Bleich氏らが、BMJ誌オンライン版10月22日付けで早期公開、その後本誌27日号で掲載されている。
貧困者対象の公的保険開始から6年
メキシコでは2001年より、貧困者を対象にした公的健康保険Seguro Popularを立ち上げ、2010年までに無保険者をなくす予定である。今回Bleich氏らはSeguro Popularの対象になりうる高血圧患者で被保険者と未保険者を比較し、公的健康保険が高血圧治療に及ぼすインパクトを調べた。
2005年の全国調査ではSeguro Popularの対象となり得る成人高血圧例は4,032例。1,065例はすでに健康保険に加入していたが、2,967例は未加入だった。被保険者と未保険者では背景因子が大きく異なるため、「年齢」、「性別」、「定期収入」、「貧困度」など9項目に関し傾向(propensity)スコアを用いてマッチングを行った。
治療率・コントロール率とも改善
その結果、Seguro Popular下で被保険者となっている高血圧患者が降圧治療を受ける確率は未保険者に比べ1.5倍、有意に高かった(95%信頼区間:1.27-1.78)。また治療により収縮期血圧(SBP)が120mmHg未満にコントロールされている割合も相対的に1.35倍増加していた(95%信頼区間:1.00-1.82)。一方、「人口1,000人当たりの医師・看護士数」と「降圧治療による血圧コントロール(SBP<120mmHg)」達成には有意な相関はなかった。「メキシコ(のような国)では医師・看護士よりも被保険者を増やすほうが降圧治療に直接的な影響があるかもしれない」とBleich氏らはコメントしている。
また同氏らが結論している通り、本研究は無保険者を多く抱える他国にとってポジティブな実例となると思われるが、肝心なのはSeguro Popularが公的保険という点だろう。自治体は実情に併せて上乗せが許可されている。したがって、米国で大統領選挙を控えヒラリー(クリントン)氏らが推進しようとしている「(医師の裁量権を事実上制限している)民間保険への皆加入」とは異質であり、米国の保険改革が同等の効果をもたらすかは改めて検討が必要だろう。
(宇津貴史:医学レポーター)