糖尿病診断の基準として空腹時血糖値が使用されてきたが、近年、食事や運動など生理的影響を受けにくい糖化ヘモグロビン(HbA1c)値の使用が推奨されるようになっている。今年1月の米国糖尿病協会(ADA)の推奨の動きに続き、日本でも診断基準改定の動きが本格化している。そのHbA1c値と従来の空腹時血糖値の予後予測能(糖尿病または心血管疾患リスク同定)について、米国ジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ校疫学部門のElizabeth Selvin氏らのグループが、比較試験を行った。NEJM誌2010年3月4日号より。
HbA1c値が増すほど、糖尿病、冠動脈疾患、脳卒中のリスクは高まる
Selvin氏らは、全米4地区で行われているAtherosclerosis Risk in Communities(ARIC)前向き研究参加者で、1990~1992年の2回目の被験者登録時に、糖尿病または心血管疾患の既往歴がなかった黒人および白人成人11,092例の全血サンプルから測定したHbA1c値をベースラインとした。その後約15年追跡した、両群の各イベント発症を比較した。
結果、ベースラインのHbA1c値と、新たに診断された糖尿病並びに心血管アウトカムとの相関が確認された。
HbA1c値「5.0%未満」「5.0~5.5%未満」「5.5~6.0%未満」「6.0~6.5%未満」「6.5%以上」の各グループの、糖尿病と診断されるリスクの多変量補正ハザード比は「5.0~5.5%未満」を基準とした場合、「5.0%未満」群0.52(95%信頼区間:0.40~0.69)、「5.5~6.0%未満」群1.86(同:1.67~2.08)、「6.0~6.5%未満」群4.48(同:3.92~5.13)、「6.5%以上」群16.47(同:14.22~19.08)だった。
冠動脈疾患のハザード比は、「5.0%未満」群:0.96(同:0.74~1.24)、「5.5~6.0%未満」群:1.23(同:1.07~1.41)、「6.0~6.5%未満」群1.78(同:1.48~2.15)、「6.5%以上」群1.95(同:1.53~2.48)だった。脳卒中のハザード比も同程度だった。
空腹時血糖値モデルでは予測できないものもHbA1c値を加えると……
一方、全死因死亡率とHbA1c値とは、J字型曲線の相関を示した。
これらHbA1c値モデルにおける、糖尿病、心血管アウトカム、死亡率との関連性はいずれも、ベースラインの空腹時血糖値による補正後も有意だった。
対照的に空腹時血糖値モデルでは、心血管疾患および全死因死亡リスクとの関連が、全共変量による補正後モデルにおいても有意性は認められなかった。冠動脈疾患のリスクとの関連については、空腹時血糖モデルにHbA1c値がつけ加えた場合に有意となった。
これらからSelvin氏は、「非糖尿病成人の地域ベースの集団において、HbA1c値は空腹時血糖値と比較して、糖尿病リスクについては同程度の相関を、心血管疾患および全死因死亡リスクについてはより強い相関を示した。このことは、糖尿病診断にHbA1c値を活用するべきことを裏づけるエビデンスが得られたことを意味する」と結論している。
(医療ライター:朝田哲明)