アルコール飲料の最低価格を設定する施策および割引制限は、アルコール飲料の消費を抑制し、健康被害や医療費の低減をもたらすことが、イギリスSheffield大学のRobin C Purshouse氏らによる調査で明らかとなった。近年、多くの国ではアルコール飲料による健康被害が社会に及ぼす影響への関心が高まっており、公衆衛生学的な介入の効果に注目が集まっている。アルコール飲料の価格を設定する施策がアルコールによる健康被害の抑制に有効なことは知られているが、医療費や健康関連QOLに対する効果を飲用の程度別に検討した試験はほとんどないという。Lancet誌2010年4月17日号(オンライン版2010年3月24日号)掲載の報告。
アルコール飲料価格が健康や医療経済に及ぼす影響を評価
研究グループは、人口の種々のサブグループにおいて、アルコール飲料の価格設定や販売促進に関する施策が、健康や医療経済に及ぼす影響を評価した。
アルコール飲料の消費に関するイギリスの家計調査(Expenditure and Food Survey:EFSおよびGeneral Household Survey:GHS)のデータを用い、18の価格施策を評価する疫学的数学モデルを構築した。
計量経済分析(256の自己価格および交差価格の弾力性推定値)のデータを用い、アルコール飲料の消費に関する施策の効果を評価した。系統的レビューとメタ解析に基づいて、寄与割合(attributable fraction)から算出されたリスク関数(risk function)を適用し、死亡率および47の疾患の発症率に及ぼす消費変動の影響をモデル化した。
パブやバーの酒類値上げは若者に有効
人口のすべてのサブグループにおいて、アルコール飲料の一般価格の上昇によって消費量が低下し、医療費が抑制され、健康関連QOLが改善された。アルコール飲料価格の下限を設定する施策により、有害な量のアルコール飲料の飲用者ではこれらの良好な効果が維持されたが、適度な量の飲用者では効果が低下した。
スーパーマーケットや酒類安売り店での販売の全面禁止は、消費量、医療費、健康関連QOLの改善に有効であったが、大型安売り店に限定して販売を禁止しても効果はなかった。パブやバーのアルコール飲料を値上げする施策は、特に18~24歳の若年成人の飲酒に対する改善効果が顕著であった。
著者は、「最低価格を設定する施策および割引制限は、酒類への支出が多くアルコールによる健康被害が最も大きい人々において、アルコール飲料の消費を抑制し、健康被害や医療費を低減する」と結論している。
(菅野守:医学ライター)