脳卒中発症後4.5時間までに遺伝子組み換え組織プラスミノーゲンアクチベーター(rt-PA)であるアルテプラーゼ(商品名:アクチバシン、グルトパ)静注投与を開始すれば臨床予後の改善が得られるが、それ以上治療開始が遅れるとリスクがベネフィットを上回ることが、イギリスGlasgow大学のKennedy R Lees氏らによるプール解析で示された。虚血性脳卒中発症後早期にrt-PAの静注投与を開始すれば予後の改善が得られるが、ベネフィットは時間の経過とともに低下することが報告されている。以前の個々の患者データの統合解析では、現在承認されている「発症後3時間以内」を超えても予後の改善効果が得られる可能性が示唆されているという。Lancet誌2010年5月15日号掲載の報告。
以前の6試験のデータに新たに2試験のデータを追加して解析
研究グループは、虚血性脳卒中を対象に発症からrt-PAであるアルテプラーゼ静注投与開始までの経過時間が治療効果や臨床的なリスクに及ぼす影響について、8試験のデータのプール解析を実施した。
急性脳卒中を対象とした以前の6試験(NINDS I/II、ECASS I/II、ATLANTIS I/II)のデータ(2,775例)に、今回、ECASS III(821例)およびEPITHET(100例)のデータを追加して新たに検討を行った。
多変量ロジスティック回帰モデルを用いて、脳卒中の発症からrt-PA治療開始までの時間(OTT)と3ヵ月後の良好な臨床予後(改訂Rankinスコア:0~1)、死亡率、臨床的に関連のある実質性出血の発症とその転帰との関連について評価した。
脳血管の画像診断は必須要件とはせず、OTTが360分以内であることが確認された症例を解析の対象とした。
発症後3時間以上が過ぎても、4.5時間までなら臨床ベネフィットあり
脳卒中発症から360分以内に治療が開始された3,670例が、アルテプラーゼ群(1,850例)あるいはプラセボ群(1,820例)に無作為に割り付けられた。
OTTが短いほど、3ヵ月後の良好な臨床予後のオッズが上昇し(p=0.0269)、OTTが約270分以上になるとアルテプラーゼ治療のベネフィットは消失した。
3ヵ月後の良好な臨床予後の補正オッズ比は、プラセボ群よりもアルテプラーゼ群で優れており、OTTが0~90分の場合は2.55(95%信頼区間:1.44~4.52、p=0.0013)、91~180分で1.64(同:1.12~2.40、p=0.0116)、181~270分で1.34(同:1.06~1.68、p=0.0135)、271~360分では1.22(同:0.92~1.61、p=0.1628)であった。
広範な実質性出血がアルテプラーゼ群の5.2%(96/1,850例)に認められ、プラセボ群では1.0%(18/1,820例)にみられたが、OTTとの関連は明確ではなかった(p=0.4140)。
死亡率の補正オッズ比はOTTの延長とともに上昇し(p=0.0444)、0~90分で0.78(95%信頼区間:0.41~1.48、p=0.4400)、91~180分で1.13(同:0.70~1.82、p=0.6080)、181~270分で1.22(同:0.87~1.71、p=0.2517)、271~360分では1.49(同:1.00~2.21、p=0.0501)であった。
著者は、「虚血性脳卒中の患者では、発症後3時間が過ぎても4.5時間までであればアルテプラーゼ静注投与による臨床症状の改善やCT画像上のベネフィットが得られる。有効性を最大限にまで向上させるには治療開始の遅延を短縮する努力を払うべきである」と結論し、「4.5時間を過ぎるとリスクがベネフィットを上回る可能性があるため注意を要する」としている。
(菅野守:医学ライター)