後遺障害を伴わない軽症の急性虚血性脳卒中患者において、アルテプラーゼはアスピリンと比較し、90日後の機能予後良好とはならない可能性が明らかにされた。米国・シンシナティ大学のPooja Khatri氏らが「PRISMS試験(Potential of rtPA for Ischemic Strokes With Mild Symptoms trial)」の結果を報告した。ただし著者は、「本試験は非常に早期に終了となっているため、決定的な結論を下すことはできず、追加研究が必要である」とまとめている。急性虚血性脳卒中患者の半数以上は、軽度の神経障害(National Institutes of Health Stroke Scale[NIHSS]スコア0~5点)を有している。アルテプラーゼに関するこれまでの主な臨床試験では、NIHSSスコアが低い患者を組み入れてはいたが、明らかな機能障害がない患者はほとんど登録されていなかった。JAMA誌2018年7月10日号掲載の報告。
明らかな機能障害がない急性脳卒中患者で、アルテプラーゼvs.アスピリン
PRISMS試験は、神経障害が軽度(NIHSSスコア0~5点)の脳卒中に対するアルテプラーゼの有効性および安全性をアスピリンと比較する、第IIIb相無作為化二重盲検プラセボ対照臨床試験で、米国75施設の脳卒中病院ネットワークにおいて実施された。対象は、NIHSSスコア0~5点で明らかな機能障害はないと判断され、発症後3時間以内に治験薬による治療が可能な急性虚血性脳卒中患者で、アルテプラーゼ群(アルテプラーゼ0.9mg/kg静脈投与+プラセボ経口投与)とアスピリン群(プラセボ静脈投与+アスピリン325mg経口投与)に無作為に割り付けられた。
解析計画では948例を目標として2014年5月30日に登録を開始したが、目標を下回り予定期間内に与えられた資金での実施が困難となったことから、2016年12月20日に登録は中止された。最終追跡日は2017年3月22日である。
主要評価項目は、当初は機能予後良好(90日時点の修正Rankinスケールのスコア0~1)の両群差とし、治療前NIHSSスコア、年齢、発症から治療までの時間で層別化してCochran-Mantel-Haenszel検定で解析する予定であったが、盲検解除または中間解析の前に試験が早期終了となったため解析計画は変更され、線形モデルを用いて同じ要因で調整した主要評価項目のリスク差とした。主要安全性評価項目は、治験薬静脈投与後36時間以内の症候性頭蓋内出血(sICH)であった。
90日後の機能予後良好は、アルテプラーゼ群78.2% vs. アスピリン群81.5%
53施設から313例(アルテプラーゼ群156例、アスピリン群157例)が登録された。患者背景は、平均年齢62歳(SD 13)、女性144例(46%)、NIHSSスコア中央値2(四分位範囲[IQR]:1~3)、治療までの時間の中央値は2.7時間(IQR:2.1~2.9)であった。313例中281例(89.8%)が試験を完遂した。
90日時点の機能予後良好は、アルテプラーゼ群122例(78.2%)、アスピリン群128例(81.5%)で、補正リスク差は-1.1%(95%CI:-9.4~7.3%)であった。また、sICHの発現はアルテプラーゼ群5例(3.2%)、アスピリン群0(ゼロ)例であった(リスク差:3.3%、95%CI:0.8~7.4%)。
(医学ライター 吉尾 幸恵)