インセンティブという“はしご”を外すと?

提供元:ケアネット

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公開日:2010/05/28

 



クリニカル・インディケーター(臨床評価指標)に対するインセンティブを外してしまうと、その指標の医療パフォーマンスは低下することが、英国NIHR School for Primary Care ResearchのHelen Lester氏らにより報告された。米国のHMO(健康維持機構)の一つ、カイザーパーマネントにおける、4つの指標をめぐる10年間の動向を分析した結果で、BMJ誌2010年5月15日号(オンライン版2010年5月11日号)で掲載されている。同氏は「医療政策担当者および臨床医は、この事実を認識しなければならない」としている。

インセンティブが外されたインディケーターのパフォーマンスは低下




カイザーパーマネントは米国最大のHMOで、北カリフォルニア地区に35の医療施設を有する。Lester氏らは、同HMO加入者252万3,659人に関する約10年間(1997~2007年)の、4つのクリニカル・インディケーターについて解析した。

4指標は、英国でプライマリ・ケア医を対象に2004年に導入されたP4P(pay for performance)のクリニカル・インディケーターにもある、「血糖コントロール(HbA1c:<8%)」「糖尿病性網膜症スクリーニング」「血圧コントロール(<140mmHg)」「子宮頸がんスクリーニング」が選ばれ検討された。

結果、4指標のうち、糖尿病性網膜症および子宮頸がんのスクリーニングは、研究対象期間中にインセンティブを外されていた。

そして糖尿病性網膜症スクリーニングは、インセンティブが付いていた当初5年間(1999~2003年)は、実施率が84.9%から88.1%へと上昇していったが、インセンティブが外された続く4年間は、実施率が年々減っていき2007年には80.5%になっていた。

子宮頸がんスクリーニングも、インセンティブがあった当初2年間(1999~2000年)は実施率は上昇し77.4%から78.0%になったが、その後5年間で徐々に減っていき74.3%(2005年)になった。2006、2007年は上昇に転じたが、いずれの年の実施率も1999年のスタート時より低い。

35医療機関全体で、インセンティブを外したことによる糖尿病性網膜症スクリーニングの年間実施率は平均約3%低下、子宮頸がんスクリーニングは同1.6%低下していた。

なお、血糖コントロールは2001年にインセンティブが導入され、それ以前は44.2%だったが2007年には69.8%に上昇していた。血圧コントロールは、2002年以降の統計のみで58.3%から78.2%(2007年)に上昇していた。

各インセンティブを削っても……




35医療機関に対するインセンティブは、2006年で4,200万ドル(約2,520万ポンド)支払われていた。医師にというよりも施設、スタッフ、医療の質改善に投資されているようだったという。このように組織ぐるみでインセンティブ獲得と質改善に取り組んでおり、またスタッフはインセンティブが医療機関の重要な収入源であることを認識していて、各インセンティブに変化があっても全獲得金額は総じて安定していたという。

一方英国では、プライマリ・ケア医に対し年間P4P絡みで10億ポンドが支払われている。この金額をめぐり、2009年秋に国とプライマリ・ケア医とが交渉した結果、8つのインディケーターが2011年4月から外されることが決定したという。Lester氏は、政策立案者はカイザーの動向を参考に、“はしご”外しは徐々に行うことや、外した後のモニタリング導入も検討すべきだと述べている。