腹部大動脈瘤に対する血管内治療 vs. 開腹手術の長期転帰を比較した大規模無作為化試験の結果、血管内治療の方が手術死亡率は低いが、長期全死亡率、動脈瘤関連死亡率は両群で有意差がないこと、長期的には血管内治療群の方がコスト高であることが明らかになった。英国血管内治療(EVAR)試験研究グループの報告によるもので、NEJM誌2010年5月20日号(オンライン版2010年4月11日号)で発表された。開腹手術は1951年以降、血管内治療は1986年以降行われるようになり、その後両群比較の30日手術死亡率の結果をエビデンスに血管内治療の有益性が支持されてきたが、長期転帰について比較を行った試験データはこれまで、ほとんどなかった。
1,252例の転帰を最低5年、最長10年追跡
EVAR試験研究グループは、1999~2004年に英国内37の病院で、直径5.5cm以上腹部大動脈瘤だった患者1,252例(平均年齢74.1±6.1歳、男性90%)を対象に、血管内治療群(626例、病変部平均6.4±0.9cm)と開腹手術群(626例、6.5±1.0cm)の長期転帰を比較する無作為化試験「EVAR 1」を行った。
追跡は2009年末まで(最短5年、最長10年)で、ロジスティック回帰分析およびCox回帰分析を用いて両群間の死亡率、グラフト関連合併症発症率、再インターベンション率、医療コストについて、比較検討された。
全死因死亡率、試験終了時にはハザード比1.03に
30日手術死亡率は、血管内治療群は1.8%、開腹手術群は4.3%で、血管内治療群がオッズ比0.39(95%信頼区間:0.18~0.87、P=0.02)と、有意に低かった。
また動脈瘤関連死亡率について、血管内治療群に早期の有益性が認められたが、その有益性は試験終了時点には消滅していた。その一因に、致死性のエンドグラフト破裂が関係していた(補正後ハザード比:0.92、95%信頼区間:0.57~1.49、P=0.73)。
両群間の全死因死亡率も、試験終了時までに有意差がなくなっていた(補正後ハザード比:1.03、95%信頼区間:0.86~1.23、P=0.72)。
一方、グラフト関連合併症発症率、再インターベンション率は、試験終了時に血管内治療群の方が高くなっていた。また、同群では無作為化後8年まで新規の合併症が発生し、トータル医療費のコスト高も招いていた。
(医療ライター:武藤まき)