遺伝性血管性浮腫(Hereditary angioedema:HAE)は、C1インヒビターの欠損により発症する常染色体優性遺伝性疾患で、「疾患を知っていれば診断は比較的容易で、診断がつけば有効な治療ができる」とされる(補体研究会HAEガイドラインより http://square.umin.ac.jp/compl/HAE/HAEGuideline.html)。一般的に四肢、腹部、外陰部、顔または中咽頭の、反復性の急性発作(一般に局所粘膜腫脹による血管性浮腫)が特徴で、腹部発作はしばしば激しい腹痛、嘔気や嘔吐を伴い、入院や不必要な手術となることがある。また咽頭部発作は、死亡リスクがかなり高い。一方で急性発作時は、C1インヒビター製剤(商品名:ベリナートP)による補充療法が効果的であることが、無作為化試験およびコンセンサスレベルでも支持されている。本論は、最近開発されたナノ濾過濃縮C1インヒビター製剤「Cinryze」(ViroPharma社)の治験報告で、急性発作の期間短縮に有効であったこと、また予防的投与で急性発作の頻度が減少したことが、米国シンシナティ大学Bruce L. Zuraw氏らにより、NEJM誌2010年8月5日号で報告された。
有効性と予防的投与を評価する二つの二重盲検プラセボ対照無作為化試験を実施
Zuraw氏らは、HAE治療における新規C1インヒビター製剤「Cinryze」の有効性を評価するため、二つの無作為化試験を行った。いずれも二重盲検プラセボ対照無作為化試験だった。
第一の試験は、急性発作に対する治療の有効性を評価するもので、計68例を無作為に製剤投与群(35例)、プラセボ群(33例)に割り付け、試験薬(各1,000単位)1回または2回を静注投与した(試験薬初回投与後60分までに被験者から無回答あるいは良好の報告がない場合2回目を投与。また4時間までに明らかな寛解が認められない場合、製剤投与によるレスキュー治療が行われた)。主要エンドポイントは、明らかな寛解の開始時間とした。
第二の試験は、週2回12週にわたる予防的投与(1,000単位)の効果を検討する試験で、遺伝性血管性浮腫患者22例を対象とした交差試験だった。2期間の比較で実施され、被験者は第1期間は無作為に製剤もしくはプラセボの予防的投与を、第2期間は第1期間と交差した試験薬投与を受けた。主要エンドポイントは、各々の被験者が予防的投与を受けていた期間中の急性発作の回数とした。
2時間以内に寛解、予防的投与で急性発作半減
第一試験の結果、明らかな寛解が認められたまでの時間は、製剤群2時間に対し、プラセボ群は4時間以上だった(P=0.02)。
第二試験の結果は、急性発作の回数は、12週につき製剤群6.26回に対し、プラセボ群は12.73回だった(P<0.001)。
またC1インヒビター製剤「Cinryze」の予防的投与を受けた被験者は、発作時の重症度および症状持続期間ともに有意に減少し、レスキュー治療の必要性、腫脹の総日数も有意に減少した。
(武藤まき:医療ライター)