イギリスでは毎年約3万人がCOPDで死亡している。COPDの増悪には人工呼吸器が有用だが、挿管にはICUへの入院を要する。一方、医師はICUに入院したCOPD患者の予後を必要以上に悲観的に予測する傾向にあることが示されている。入院は医師の予後診断によって決まるため、入院すべき患者が挿管のためのICU入院を否認されている可能性がある。
Northern General Hospital(イギリス、シェフィールド)のMartin J. Wildman氏らは、COPDの重篤な急性増悪に対する医師の予後診断と、実際の生存アウトカムを比較するプロスペクティブなコホート研究を行った。BMJ誌11月1日付オンライン版、12月1日付本誌掲載の報告。
ICU退室時、退院時、180日後の生存を予測
対象はCOPD、喘息、COPD/喘息併存の増悪による息切れ、呼吸不全、精神状態の変化がみられる45歳以上の患者とした。2002年3月~2003年9月の間に92のICUおよび3つの呼吸器高度治療室(RHDU)に入院した832例が試験に登録された。
医師は入院時に、当該患者のICU/RHDU退室時、病院退院時、入院から180日後の生存について尋ねられた。180日後の生存はGPを通じて確認し、国立統計局を通じて確定した。
予測180日生存率は49%、実際は62.1%
実際の退室時生存率は80.9%、退院時生存率は70.2%であった。入院から180日後に517例が生存しており、生存率は62.1%であったのに対し、医師による平均予測180日生存率は49%であった。
予後の良好度を5段階に分けた場合に、最も不良な予後が予測された患者群の予測180日生存率は10%であったが、実際の生存率は40%であった。10段階に分けた場合に最も予後が不良とされた患者群では、医師の予測生存率は3%にすぎなかったが、実際の生存率は36%であった。
試験に参加したICU/RHDUと参加しなかったICU/RHDUの設備は同等であり、同一施設で試験に登録された患者と登録されなかった患者の背景に差はなかった。
イギリスの悲観主義的な文化的背景が影響か
Wildman氏は、「COPD患者、喘息患者の挿管のためのICU入院は、医師の予後診断によって決まるため、入院していれば生存が可能であった症例が根拠のない悲観的な予後予測が原因で入院を否認されている可能性がある」と結論している。また、同氏は「イギリスの悲観主義的な文化が、COPD患者のトリアージにおける医師の意思決定(decision making)をゆがめている可能性がある」と指摘している。
(菅野 守:医学ライター)