ピア・レビューワーに事前に、担当した査読報告(ピア・レビュー)内容がウェブ公開されることを知らせても、査読の質には影響しないことが、BMJのリサーチャーであるSusan van Rooyen氏らが行った無作為化試験で示された。開示性および透明性は、医学研究の中でも特に薬剤関連分野で高い関心を集める領域であり、秘密主義や説明責任の欠如が査読の大きな欠陥とされる。科学ジャーナルの多くはその点への対応に消極的だが、これまでの研究で、論文のレビューワーの身元が他のレビューワーや著者に知られても査読の質を損なわないことは示唆されているという。BMJ誌2010年11月20日号(オンライン版2010年11月16日号)掲載の報告。
ピア・レビューワーを公開する群としない群を比較
研究グループは、原著論文のピア・レビューワーにその査読内容がBMJのウェブサイトに掲載されることを知らせることが、査読の質に影響を及ぼすか否かについて検討する無作為化対照比較試験を行った。
試験には541人の著者、471人のピア・レビューワー、12人のエディターが参加。適格基準を満たした論文とともにレビューワーの査読報告がBMJのウェブサイトに掲載される群(介入群)あるいは著者のみが査読報告を知りうる群(対照群、BMJの通常の方法)に無作為化された。介入群のレビューワーは、査読を引き受けてからそれに取りかかる前に、査読報告がウェブサイトで公開されることを知らされた。
主要評価項目は査読の質とし、2人のエディターと著者が別個に、妥当性が実証された方法を用いて5段階で評価した。エディター、著者にはどの論文が介入群かは知らされず、著者の場合は自分の論文の採否が決定する前に評価を行った。査読に要した時間およびレビューワーによる掲載の推薦傾向についても検討がされた。
辞退率が55%に達し、執筆時間が25分延長したが、質には影響しない
558編の論文が無作為割り付けされ、471編が解析の対象となった。試験への参加を打診された1,039人のレビューワーのうち568人(55%)が辞退した。2人のエディターは全471論文の評価を行い、著者は453論文について評価した。
介入群と対照群で査読の質に有意な差は認めなかった(エディター:介入群3.40点、対照群3.36点、平均差:0.04、95%信頼区間:-0.09~0.17、著者:介入群3.16点、対照群3.10点、平均差:0.06、95%信頼区間:-0.09~0.20)。
著者はエディターよりも評価点が低かったが、平均点の差は0.26であり、これは編集作業に影響を及ぼすとされる最低値である0.4を十分に下回っていた。
介入群のレビューワーが査読に費やした時間は182分であり、対照群の157分に比べ有意に長かった(平均差:25分、95%信頼区間:3.0~47.0、p<0.05)。
著者は、「ピア・レビューワーに、自分の査読報告がBMJのウェブサイトに公開される可能性を知らせても、査読の質には影響しなかった」と結論し、「査読のオンライン上への掲載は、ピア・レビューワーの辞退率を上昇させ、査読報告の執筆時間を延長させたが、査読の公開を支持する倫理的な議論はこれらの不利益を上回ると考えられる」と考察している。
なお、本論文の審査、査読報告は完全に外部に委託され、BMJの編集スタッフは採否の決定には関わっていないという。
(菅野守:医学ライター)