3年ごとに4回の前立腺がん検診を行い、20年に及ぶ長期のフォローアップを実施した結果、検診群の前立腺がん死亡率は対照群と差がないことが、スウェーデンKarolinska研究所のGabriel Sandblom氏らの調査で明らかとなった。北欧では、最近、前立腺がん治療においては待機療法(watchful waiting)よりも根治的前立腺全摘除術の予後が良好なことが示され、特に前立腺特異抗原(PSA)検査による早期発見に関する議論が活発化している。早期発見を目的とする検診の短期的なベネフィットについては、前立腺がん死の抑制効果が示唆される一方で、過剰診断や過剰治療のリスクが増大するなど、これを疑問視する知見が得られているが、長期的なフォローアップを行った試験はないという。BMJ誌2011年4月23日号(オンライン版2011年3月31日号)掲載の報告。
1987年に50~69歳の約1,500人を3年ごとに4回スクリーニング、2008年まで追跡
研究グループは、前立腺がんの対策型検診(population-based screening)による前立腺がん死の抑制効果を検討する地域住民ベースの無作為化対照比較試験を実施した。
対象は、1987年にスウェーデンのノーショーピング市に居住していた50~69歳の男性9,026人。このうち生年月日リストから6人ごとに選ばれた1,494人が検診群に割り付けられ、1987~1996年まで3年ごとに前立腺がん検診を受けるよう勧められた。残りの7,532人は非検診群(対照群)としてフォローアップが行われた。
試験開始時はPSA検査導入前であったため、2回目の検診までは直腸指診のみが行われ、1993年以降はPSA検査が併用された(カットオフ値:4μg/L)。4回目の検診(1996年)は、この時点で69歳以下の男性(1927~37年生まれ)のみが受診を勧められた。スウェーデン南東地域の前立腺がん登録から腫瘍の病期、悪性度、治療のデータを収集し、2008年12月31日までの前立腺がんによる死亡率を算出した。
前立腺がん診断率:5.7% vs. 3.9%、前立腺がん特異的死亡率:35% vs. 45%
1987~1996年の4回の検診受診率は、第1回(1987年)が78%(1,161/1,492人)、第2回(1990年)が70%(957/1,363人)、第3回(1993年)が74%(895/1,210人)、第4回(1996年)は74%(446/606人)であった。
前立腺がんと診断されたのは、検診群が5.7%(85/1,494人)、対照群は3.9%(292/7,532人)であった。検診群の前立腺がん患者のうち、検診で発見されたのは43人(2.9%)、検診と検診の間にみつかった中間期がん(interval cancer)は42人(2.58%)であった。
前立腺がん診断例の前立腺がん特異的死亡率は検診群が35%(30/85人)、対照群は45%(130/292人)であり、前立腺がん死以外の死亡も含む全体の死亡率はそれぞれ81%(69/85人)、86%(252/292人)であった。前立腺がん特異的生存期間は、検診群201ヵ月、対照群133ヵ月であった。前立腺がん死のリスク比は1.16(95%信頼区間:0.78~1.73)であり、有意な差は認めなかった。
Kaplan-Meier法による解析では、前立腺がん診断例の前立腺がん特異的死亡率および全体の死亡率は、検診群と対照群で同等であった(log-rank検定:それぞれ、p=0.065、p=0.14)。Cox比例ハザード解析によるハザード比は1.23(同:0.94~1.62、p=0.13)であり有意差はみられなかったが、試験開始時年齢で調整したハザード比は1.58(同:1.06~2.36、p=0.024)と有意な差が認められた。
著者は、「フォローアップ期間20年における検診群と対照群の男性の前立腺がんによる死亡率に有意な差は認めなかった」と結論し、「任意型検診(opportunistic screening)がほとんど行われていない集団を対象とした無作為化対照比較試験において、検診群で前立腺がんが多くみつかり、患者は両群とも同じ施設で管理されたにもかかわらず、前立腺がん死亡率に差を認めなかったことは、検診によって、死亡率に影響を及ぼさない進行の遅い腫瘍が多く発見されたと考えられ、過剰診断や過剰治療の可能性が示唆される」「本試験は、明確な結論を提示するには集団の規模が十分とはいえないが、前立腺がん特異的死亡率の差を示すには十分な検出能を持つと考えられる」と考察している。
(菅野守:医学ライター)