これまでもアメリカ国立衛生研究所(NIH)の援助で維持されてきた若手医師臨床科学者の輩出と彼らの成果については、様々な関心が寄せられてきたが、「MD」(医学士)の資格のみを持つ研究者(MD研究者)の境遇については、これまで満足な分析が行われてこなかった。Howard B. Dickler氏らは、41年間のNIHの助成金初回応募数と傾向を分析し、その結果、MD研究者でも特に臨床研究を提案した者の助成金獲得が不利な状況にあり、このままでは「絶滅危惧種になってしまう」と警告を発した。詳細は、JAMA誌2007年6月13日号で報告されている。
MD研究者の助成金獲得は上級資格者を下回る
調査は、1964年から2004年の間にNIHの一般個人研究(R01)助成金を授与された初回応募者全例を、主任研究者の学位(MD、PhD、MDとPhDの両方)別、研究タイプ(臨床、非臨床)別に階層化し、縦断的比較研究で行われた。主要評価項目は、初回および2回目のNIH R01申込者数と、それぞれの学位別および研究タイプ別の数とした。
MD研究者の年間初回申込者数は極めて一定しており、41年間の平均値は707例(537~983の範囲)で、年平均パーセンテージ(MAP)は28%だった。そして、PhD研究者(MAP31%)や、MD+PhD研究者(MAP34%)と比べて、資金提供を獲得した例が一貫して少なかった。
MD研究者と臨床研究の将来に警鐘
また、初回R01助成金を獲得したMD研究者のうち、2回目も獲得できた比率はMAP70%で、やはり一貫してPhD研究者(MAP73%)、MD+PhD研究者(MAP78%)より少なかった。さらに、MD研究者で臨床研究を提案した申込者はMAP67%で、MD+PhD研究者(MAP43%)、PhD研究者(MAP 39%)より、ずっとたくさんの臨床研究を提案していたが、実際に助成金を獲得できたのは23%で、非臨床研究を提案したMD研究者の獲得率が29%だったことに比べると相対的に低いことも明らかになった(P<0.001)。
すなわち、この40年間、R01助成金を申し込むMD研究者の数はほとんど増えておらず、彼らは初回助成金は受けられても高率で減額や受給停止の憂き目に遭い、特に臨床研究提案者は助成金を受けにくい状況にあるなど、まさにMD研究者と臨床研究の将来に危機感を抱く結果が明らかになったのである。
(朝田哲明:医療ライター)