途上国では、貧困層は病気になってもケアを受けようとしない傾向がある。医療費負担によりさらなる貧困に陥るからだ。一方、地域社会的な健康保険は、途上国における医療への近接性の改善や財政保護の手段として語られることが多い。しかし、現在の一般的な地域保健のスキームでは、会員が少ない、最貧層が除外されている、ベネフィットの活用における不平等などにより、資源の平等な再配分には限界がある。
では、最貧層が地域健康保険のベネフィットを獲得できるようにするためにはどうすればよいか。ロンドン衛生学熱帯医学校・医療経済学/財政計画科のM. Kent Ranson氏らは、スキームを改善する新たな介入戦略について検討した。BMJ誌5月25日付オンライン版、6月23日付本誌掲載の報告から。
SEWA会員を対象に、地域健康保険受給の公正化を目的に介入
女性自営者協会(SEWA、
http://www.sewa.org/)は、インド西部のグジャラート州を基盤とするインフォーマル部門(小規模な労働集約的作業所)に従事する貧困女性労働者の組合組織で、現在50万人以上の会員をかかえる。1992年から、会員向けに健康保険を含む家族保険を発行している。
Ranson氏らは、保険申請の公正化を目的に2つの介入法と標準的スキームを比較するプロスペクティブなクラスタ無作為化対照比較試験を実施した。2003年に、16地区のSEWA会員を(1)アフターサービス+サポート管理、(2)退院時払い戻し、(3)(1)+(2)、(4)標準的スキームの4つの群に割り付け、2年間のフォローアップを実施した。
全体の保険受給率は改善したが、介入による効果は認めなかった
2003~2005年の間に、SEWA保険会員の平均的な社会経済状況が有意に改善しており(グジャラート州在住者との比較)、平均受給率も有意に改善した(p<0.001)。しかし、介入群と標準的スキーム群の間には有意な差は見られなかった。また、同一地区の会員と比較して、受給者の社会経済状況に対する介入の系統的な効果は認められなかった。
Ranson氏は、「各地区の貧困層が地域健康保険のベネフィットをより多く享受できるようにするには、これらの介入法では不十分であった」と結論した上で、「介入の結果として受給の申し込みが増加したことから、地域健康保険の認知度および信頼度は強化されたと考えられる」と指摘している。
(菅野 守:医学ライター)