尿失禁のうち、急迫性尿失禁は排尿筋の過活動によって起き、腹圧性尿失禁は尿道括約筋複合体の機能障害を原因とする。女性の尿失禁の8割近くが腹圧性あるいは混合性であることから、尿道括約筋複合体(尿道、横紋筋性括約筋)を治療ターゲットとしたアプローチは有望と考えられている。
前臨床試験では、自家筋芽細胞の経尿道的注入により横紋筋性括約筋の再生が促進され、線維芽細胞は尿道粘膜下層の再建に有効なことが示されている。オーストリア・インスブルック医科大学泌尿器科のStrasser氏らは、腹圧性尿失禁に対する経尿道的超音波ガイド下自家筋芽細胞/線維芽細胞注入法と従来の内視鏡的コラーゲン注入法の有効性と認容性を比較する無作為化試験を実施、その結果を6月30日付Lancet誌上で報告した。
尿失禁スコア、横紋筋性括約筋の収縮性などを従来法と比較
2002~04年の間に、腹圧性尿失禁の女性患者63例が登録された。42例が経尿道的超音波ガイド下自家筋芽細胞/線維芽細胞注入法(自家細胞注入群)に、21例が内視鏡的コラーゲン注入法(従来法群)に無作為に割り付けられた。
主要評価項目は、24時間排尿日誌、24時間パッドテスト、患者質問票に基づく尿失禁スコア(0~6点)および横紋筋性括約筋の収縮性、尿道と横紋筋性括約筋の厚さとした。
自家細胞注入群で尿失禁スコアが著明に改善
フォローアップ期間12ヵ月の時点で尿失禁が完全に解消された症例は、自家細胞注入群が38例(90%)であったのに対し、従来法群は2例(10%)にすぎなかった。尿失禁スコア(中央値)は、ベースラインの6点から自家細胞注入群は0点へと著明な改善を示したのに対し、従来法群は6点のままであり、有意な差が認められた(p<0.0001)。
横紋筋性括約筋の平均厚は、ベースラインの2.13mm(全症例の平均)から自家細胞注入群が3.38mmへと増加したのに対し、従来法群は2.32mmにとどまった(p<0.0001)。また、横紋筋性括約筋の収縮性はベースラインの0.58mmから自家細胞注入群は1.56mmへ増加したが、従来法群は0.67mmにすぎず、有意差が見られた(p<0.0001)。治療後の尿道厚の変化は両群で同等であった。
フォローアップ期間3年の時点においても、自家細胞注入法による重篤な有害事象や瘢痕の報告はなく、術後の有効性に変化は見られないという。Strasser氏は、「自家細胞の経尿道的注入法を尿失禁の標準的治療法として確立するには、多くの症例を対象とした長期にわたるプロスペクティブな多施設共同比較試験を実施する必要がある」としている。
(菅野 守:医学ライター)