英国電子カルテ・NHS医療記録サービス、臨床家の利益は限定的、患者の利益は不明

提供元:ケアネット

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公開日:2011/11/11

 



英国で国家的IT戦略の一つとして2002年により導入が開始された2次急性期病院への電子カルテシステム「NHS医療記録サービス」について、エジンバラ大学集団保健センターeHealth研究グループのAziz Sheikh氏らが、早期導入した12病院の状況の長期質的評価を行った。結果、サービス実行には時間がかかり骨が折れるものであること、臨床家にとって利益は限定的で、患者にとっては明確な利益が不明であったという。英国の全377病院は2010年末までに同システムを導入しなければならなかったが、稼働は5つに1つの病院にとどまっており、今後の進め方について見直しの議論が進められているという。BMJ誌2011年10月29日号(オンライン版2011年10月17日号)掲載報告より。

2年半にわたる関係者への面接、観察、文書データ解析でシステム導入を質的評価




本報告は2年半にわたって行われた評価の最終評価であった。評価は、深層面接、観察、ケーススタディあるいは導入戦略について広範な国家的成果に影響があると認められた文書からデータが集められ、導入初期から全体にわたる解析が行われた。

集められたデータは次の通りであった。病院スタッフ、デベロッパー、政府のステークホルダーなどキーとなるステークホルダー431人の準組織的な面接記録。590時間にわたる戦略会議とソフトウェア活用に関する記録。334セットの観察ノートと分析者のフィールド調査ノートおよび国の会議ノート。809のNHS文書と、58の地方および国の文書。

ソリューション全体の目標を見失ってはならない




結果、当初計画したよりも、システム導入には非常に時間がかかっており、導入は限定的で、実質的に臨床的には機能してないことが認められた。国家戦略の成果は限定的で、より広範な開発が導入への重荷となっていた。

特に、遅れは想定外のシステム能力や、ソフトウェアの構築・設定・カスタマイズに時間を要したこと、システムが医療の供給をサポートしたことを証明する作業が必要なこと、エンドユーザーへの訓練とサポートが必要なことなどが関係していた。

その他導入進展を妨げた要因として、NHSの政策方針と優先事項の変化、契約再交渉が繰り返されたこと、NHS医療記録サービスシステム開発ステージの多様性、異なるステークホルダー間の複雑なコミュニケーションプロセス、NHS提供者を除外して進められた契約協定などだった。

早期のシステム稼働が組織内・組織間の重大な学びに結びつくこと、NHS病院内の適切な権限開発に結びつくことが認められた。

研究グループは、「この結果が後発病院にもあてはまるとは限らないが、われわれの評価は大規模な新しいシステム実行のプロセスで起きたことを明らかにした」と述べ、「われわれの中間解析に基づき提唱した局所的意思決定増大への移行がNHSによって推進され歓迎されているが、政策担当者は、ソリューション全体の目標を見失ってはならない」と結論している。