医療サービスの開発に患者や地域社会が参画すれば、よりよいサービスがもたらされアウトカムが改善すると考えられているが、サービスの質や有効性に対する患者参画の効果を示すエビデンスは少ないという。今回、ロンドン市で実施された脳卒中医療サービスの近代化プログラムにおける検討で、医療サービスの開発に患者が参画しただけではサービスの質は改善しないことが示された。英国King’s College LondonのNina Fudge氏がBMJ誌2008年2月9日号(オンライン版1月29日号)で報告した。
日常診療への患者の参画に影響を及ぼす因子を同定する
本試験は、患者参画の施策が医療サービス機関にどう受け止められるかを把握し、日常診療への患者の参画に影響を及ぼす因子の同定を目的とした民族誌的研究である。
対象は、ロンドン市の2つの特別区における脳卒中医療サービスの改善を目的とした近代化プログラムに参画した医療サービスの利用者(患者)、国民保険サービス(NHS)のマネージャーおよび医師であった。調査は、参加者との協議、インタビュー、記録文書に基づいて行われた。
医療従事者と患者は異なる方法で患者参画を理解し、実践している
患者のプログラムへの参画は医療従事者が先導しており、患者が参画するサービス改善の領域も医療従事者が決めていた。患者同士が提供し合うサポートに関する満足度調査では、広範な活動領域で「患者の参画」が期待されていた。
参画が最も活発であったのは、技術的な要素が少ない領域および医師からの指示がほとんどない領域という傾向がみられた。これを説明しうる因子として以下が確認された。1)組織構成、2)患者参画という概念のあいまいさ、3)患者の経験的知識に対する高い評価、4)参画に対する医療従事者と患者の理解および意欲のばらつき。
参画の利益を医療サービスに及ぼす影響の観点から確認するのは困難であったが、参画によって得られる個人的な利益は明確だった。すなわち、医療従事者に話を聞いてもらうことで得られる満足感、同様の境遇にいる他者と会う機会、脳卒中および利用可能なサービスに関する知識の増加などである。
以上の結果をふまえ、Fudge氏は「患者の参画によって自動的に医療サービスの質が改善されるわけではない。医療従事者と患者は、個人的なイデオロギー、生活環境、必要性に従い異なる方法で患者参画を理解し、実践している」と結論する。また、「医療サービス開発への患者参画の取り組みにおける開発の手がかり(resource implications)を考慮すれば、それを求めるに足るベネフィットに関するより優れたエビデンスだけでなく、参画の目的に関しても批判的な議論を行う必要がある」と考察している。
(菅野守:医学ライター)