アメリカでは年間34万件の股関節骨折(90%が転倒による)が発生しており、ナーシングホーム入所者の罹患率が最も高いという現状がある。しかし一方で、ナーシングホーム入所者を対象とする、股関節骨折予防のためのヒッププロテクター装着の有効性に関する過去のスタディは、相反する結果を有してきた。
ボストンにあるInstitute for Aging Research のDouglas P. Kiel氏らは、ヒッププロテクター装着の有効性についてHIP PRO(Hip Impact Protection PROject)と称する多施設共同無作為化試験を行った。JAMA誌7月25日号からの報告。
衝撃分散・吸収両タイプを用い多施設共同無作為で
ヒッププロテクターには、衝撃を分散させるタイプと、吸収するタイプがある。本研究ではいずれかを用いるのではなく両タイプを使い、37施設のナーシングホーム入所者を対象に無作為に、左右いずれか片方だけに装着してもらうよう割り付けた。また先行研究の反省点として遵守率に留意し、参加者は事前に2週間、装着遵守した者だけを登録し試験対象とした。さらに試験中も週3回、アポなし訪問で装着遵守率が確認された。
試験期間は2002年10月~2004年10月の2年間。主要評価項目は、プロテクターを装着した側としなかった側それぞれの臀部の股関節骨折事象の発生。
左右臀部プロテクター装着の有無、高い遵守率群でも罹患率に有意差なし
本研究は追跡調査期間20ヵ月(観察676人年)で効力の欠如により終了となった。参加者は1,042人(平均年齢85歳;SD 7、女性79%)、平均参加期間は7.8ヵ月。有害事象は特に起きなかった。
結果は、プロテクターの有無の違いによる左右の股関節骨折の罹患率に有意差は見られなかった(P=0.70)。
プロテクター装着の遵守率は73.8%。遵守率80%を超える334人の群についても、左右のプロテクター有無による罹患率の有意差は見られなかった(P=0.42)。
Kiel氏らは、「プロトコルの良好な遵守にもかかわらず、我々は股関節骨折のリスクに対するヒッププロテクター装着の有効性を見出すことができなかった。本研究は、股関節部骨折の予防には有効ではないというエビデンスを補強する結果ものだった」と結論付けた。
(武藤まき:医療ライター)