先進国ニュージーランドでも、入院の最大の原因は感染性疾患であり、感染症罹患リスクには明確な人種的、社会的な隔差が存在することが、ニュージーランド・オタゴ大学のMichael G Baker氏らの調査で示された。重篤な感染性疾患の疾病負担は先進国では低下傾向にあるが、ニュージーランドでは総発生率を検討した全国調査はほとんどないという。Lancet誌2012年3月24日号(オンライン版2012年2月20日号)掲載の報告。
疫学情報の新たなモニタリング法を開発
研究グループは、重篤な感染性疾患の疫学情報をモニタリングする系統的な方法を開発し、その妥当性を検証した。1989~2008年のニュージーランドにおける感染性および非感染性疾患による全入院について全国的な疫学調査を行い、人種別、社会経済的状況別の発生率を検討した。
国際疾病分類第9版(ICD-9)に基づく診療データの記録方式を第10版(ICD-10)に準拠したものに拡張し、これをニュージーランド保健省の入院データに適用した。得られた結果を解析して、保健診療の経時的な変化について評価し、急性疾患による入院の状況を調査した。
他国でのサーベイランスにも適用可能
入院の最大の原因は感染症であった。急性疾患による入院に占める割合は、1989~1993年の20.5%から2004~2008年には26.6%に増加していた。
感染症の罹患リスクには明確な人種的、社会的な隔差が認められた。2004~2008年の年齢で標準化した感染症罹患リスクの率比は、ヨーロッパ系人種に比べ先住民マオリ族が2.15、太平洋系民族は2.35であった。貧困度の五分位別の解析では、社会経済的な貧困度が最も低い群に比べ、最も高い群の感染症罹患リスクの率比は2.81だった。
これらの隔差は過去20年で実質的に増大しており、特に最も貧困度の高いマオリ族と太平洋系民族で感染リスクが高かった。
著者は、「これらの知見は、感染性疾患の予防努力のいっそうの強化と、人種・民族的、社会的な隔差を縮小し、所得、住環境、保健サービスへのアクセスなど広範な社会的因子の隔差に関し公知を促す必要性をさらに高めるものである」と結論づけ、「我々が開発した方法は、他の国でも感染性疾患のサーベイランスに適用可能と考えられる」と指摘している。
(菅野守:医学ライター)