所得だけでなく死亡率にも格差か、構造・経済改革後のニュージーランド

提供元:ケアネット

印刷ボタン

公開日:2008/02/29

 

ニュージーランドでは、1980年代から90年代に実施された大規模な構造・経済改革によって所得格差が拡大したが、これにともなって所得額別の死亡率にも格差が生じた可能性があることが、Otago大学(ウェリントン)健康格差研究プログラムのTony Blakely氏らの検討で明らかとなった。同氏らは、これらの死亡格差に寄与した疾患についても解析を行った。BMJ誌2008年2月16日号(オンライン版2008年1月24日号)掲載の報告。

人口調査と死亡データを解析する繰り返しコホート研究




本試験は、1981、1986、1991、1996、2001年の人口調査と死亡データを解析する繰り返しコホート研究であり、対象は1~74歳のニュージーランドの全人口であった。

家計所得額別のコホートごとに、年齢および人種で標準化した死亡率を算出した。また、絶対スケールおよび相対スケールの双方で所得と死亡率の格差を評価するために、標準化死亡率の差および比、さらに格差のslope index(SII)およびrelative index(RII)を算出した。

相対的死亡格差が拡大、絶対的な格差拡大は確認できず




性別、年齢、所得額で層別化した各群の全原因死亡率は、25年の試験期間を通じて25~44歳の低所得層では男女ともに変化はなく改善が見られなかったが、それ以外のすべての群は低減しており改善が認められた。

すべての年齢群において、1981~84年から1996~99年にかけて所得額により相対的死亡格差が拡大(RIIが男性で1.85から2.54に、女性で1.54から2.12に増加)したが、2001~2004年には安定化(それぞれ2.60、2.18)した。絶対的死亡格差の経時的変化は安定しており、1996~99年から2001~04年にかけてはわずかながら格差が縮小していた。

所得による死亡格差に最も寄与した疾患要因は心血管疾患であるが、男性では1981~84年の45%から2001~2004年の33%へと低下し、女性でも50%から29%へと低下した。これは、癌の寄与が男性で16%から22%へ、女性では12%から25%へと増大したことと関連すると考えられる。

Blakely氏は、「経済再編中および再編後のニュージーランドにおける所得額別の死亡格差は相対的に拡大したが、絶対的な格差拡大は確認されなかったことから、構造改革との因果関係を断定することは困難」と結論し、「死亡格差に対する個々の死因の寄与には経年変化が見られることから、健康関連政策の優先順位を再考する必要が示唆される」と指摘している。

(菅野守:医学ライター)