最近10年で、イングランド/ウェールズにおける若年男性の自殺率が著明に低下したことが、BMJ誌2008年3月8日号(オンライン版2008年2月14日号)に掲載された英国Bristol大学社会医学のLucy Biddle氏らが行った研究で明らかとなった。20世紀末の自殺の疫学において最も衝撃的な特徴のひとつが、最先進工業国における若年男性の自殺率の増加とされる。イングランド/ウェールズでは、1950年から1998年にかけて45歳以上の男性および全年齢の女性では自殺率が低下したのに対し、45歳未満の男性では倍増していた。
ONSの1968~2005年の自殺データを解析
研究グループは、1970年代、80年代、90年代前半と増加を続けていた若年男性の自殺率が、最近になって低下しているとの観察記録を検証するために、若年者の自殺傾向について調査する時系列研究を行った。
英国国家統計局(ONS)の1968~2005年のイングランド/ウェールズにおける15~34歳の男女の自殺に関するデータの解析を行った。1992年までは毎年の死亡登録データを用いたが、1993年以降は実際の死亡日のデータを使用した。これは、自殺の正式な調査過程では実際の死亡から登録までに何か月も要する可能性があるからである。
若年男性の自殺率が2005年には過去30年間で最低に
1990年代以降、若年男性の自殺率が着実に低下し、2005年には過去30年間で最低値に達していた。
この自殺による死亡率の低下の一因として、1993年に制定された法律による触媒式排気ガス浄化装置が導入された自動車の普及に伴う排気ガス中毒死の低下が考えられたが、首吊りなどの一般的な自殺法の減少がより大きな波及効果を及ぼしたことが示唆された。
失業や離婚などの自殺のリスク因子も減少していた。若年男性のアルコール飲用の減少や抗うつ薬処方の増加は、時期的に見て自殺率の低下との関連は認められなかった。
(菅野守:医学ライター)