論文冒頭に、著者は記している。「当初の楽観的展望は短命に終わった」。
イギリスでは照会から専門医による診察までの順番待ちの期間が長く、その結果としての診断、治療の遅れが高い乳癌死亡率の理由の一端とされていた。そこで、1999年、乳癌が疑われる女性は一般医(GP)からの照会後2週間以内に専門医の診察を受けるという「2週間ルール」が導入された。しかし、科学的基礎に乏しいため当初からその効果を疑問視する声があった。
イギリス・ブリストル市Frenchay病院乳癌治療センターのShelley Potter氏らは、乳癌の2週間ルールが照会パターン、癌の診断、待ち時間に及ぼす長期的効果を評価した。BMJ誌7月13日付オンライン版、8月11日付本誌掲載の報告。
7年間に、2週間ルールによる照会は42%増加、一般照会数は24%減少
1999~2005年の7年間に、GPから乳癌専門クリニックへの新規照会数は2万4,999件(年平均3,571件)にのぼり、1999年の3,499件から2005年には3,821件と9%増加していた。
2週間ルールによる照会は1999年の1,751件から2005年には2,490件と42%増加し、一般照会数は1,748件から1,331件へと24%減少した。
乳癌診断率は、2週間ルール群で有意に低下、一般照会群で有意に増加
2 週間ルール群の乳癌診断率は、1999年の12.8%から2005年には7.7%へ有意に低下(p<0.001)したのに対し、一般照会群では2.5%から5.3%へ有意に増加した(p<0.001)。2005年に発見された乳癌261例のうち70例(27%)が一般照会群であった。
待ち時間は、2002年までは低下傾向にあったが、2003年以降は2週間ルール患者の増加を反映して上昇に転じ、2005年の一般照会群の平均待ち時間は30日であった。
Potter氏は、「乳癌の2週間ルールはまったく患者の役に立っていない。本ルールによる乳癌診断率が低下する一方で、一般照会群の乳癌診断率は許容できないレベルに上昇している。2週間ルールは直ちに見直すべき」と結論している。
また、「一般照会群の乳癌症例は、2週間ルールの劇的な需要増大による待ち時間の延長と診断の遅れがもたらした不利益の可能性がある」「2週間ルールの導入後、GPによる乳癌の診断精度が低下していることが示唆されるが、これはGPの診断スキルの低下ではなく本ルールの判定基準の予測値が不良なため」と考察している。
(菅野 守:医学ライター)