台湾(人口約2,300万人)では、1990~2010年までの20年間に、産業化の進展にともなって「頻度の高い精神障害(common mental disorder:CMD)」の疑い例が倍増し、並行して全国的に失業率、離婚率、自殺率が増加したことが、台湾・中央研究院(Academia Sinica)のTiffany Szu-Ting Fu氏らの調査で示された。マクロ社会の変動は精神的健康に影響を及ぼす可能性がある。CMDは、一般集団におけるほとんどの非精神病性障害、うつ状態、不安障害を含む広範な診断カテゴリーで、WHOによればうつ状態は2020年までに、障害調整生存年(DALY)の主要因になると予測されるという。Lancet誌2013年1月19日号(オンライン版2012年11月12日号)掲載の報告。
CMD有病率の横断的調査を繰り返し、その変遷を解析
研究グループは、台湾の産業化が進んだこの20年間におけるCMDの有病率の変遷について、5年ごとに横断的調査を行った。
1990年、1995年、2000年、2005年、2010年に、12項目からなる中国版健康質問票を用いて成人台湾人の精神的健康状態を評価した。スコアが3点以上の場合に、CMDの可能性ありと判定された。
コクラン・アーミテージ検定を用いてCMDの傾向を評価し、多変量ロジスティック回帰モデルでリスク因子(性別、年齢、配偶者の有無、教育程度、就労状況、身体的健康状態)の解析を行った。得られた結果を全国的な失業率、離婚率、自殺率のデータと比較した
1990年の11.5%から2010年には23.8%へ
1万548人の回答者のうち、質問票にもれなく答えたのは9,079人(86.1%)であった。CMD疑い例の割合は、1990年の11.5%から2010年には23.8%と倍増した(時間的傾向:p<0.001)。5回の調査年のすべてにおいて、全国的に失業率、離婚率、自殺率が並行して上昇していた。
CMDを疑う有意なリスク因子として、女性[調整済みオッズ比(OR):1.6、95%信頼区間(CI):1.4~1.8]、教育期間が6年未満(同:1.3、1.1~1.5)、失業(同:1.4、1.1~1.7)、日常活動を制限する身体的不良(同:6.5、5.4~8.0)が挙げられた。これらの因子を多変量モデルで解析したところ、有意な時間的傾向が維持されていた(p<0.0001)。
著者は、「台湾ではCMD疑いの有病率の増加と並行して全国的に失業率、離婚率、自殺率が増加していた」と結論し、「経済市場や労働市場の変動期には、臨床的、社会的な予防対策が重要と考えられる」と指摘している。
(菅野守:医学ライター)