フランス国立保健医学研究所(INSERM)のCarmen Lefaucheur氏らの研究グループは、腎同種移植片の拒絶反応の未知の表現型として、「抗体関連型血管性拒絶反応(antibody-mediated vascular rejection:ABMR/V+)」を同定したことを、Lancet誌2013年1月26日号(オンライン版2012年11月23日号)で報告した。このタイプの拒絶反応は全体の約2割を占め、移植片喪失リスクが既知のタイプの拒絶反応に比べて高いこともわかった。現在の国際分類では2つの急性拒絶反応の表現型(T細胞関連型拒絶反応、抗体関連型急性拒絶反応)が示されているが、表現型とアウトカムの臨床的関連は複雑なため、その同定は困難であり、見逃されている表現型が治療に直接悪影響を及ぼしている可能性があるという。
拒絶反応のパターンを地域住民ベースの調査で評価
研究グループは、腎同種移植片拒絶反応の表現型の特性を評価して抗HLA抗体との関連を同定し、予後を正確に予測することを目的に、地域住民ベースの調査を行った。
1998年1月1日~2008年12月31日までに、パリ市のNecker病院およびSaint-Louis病院でABO適合型腎移植を受けた患者を対象とした。フォローアップは2010年3月31日まで行われた。急性拒絶反応をきたした患者の生検標本を調べ、移植片の機能低下と病変の病理組織学的な特性の関連に基づいて定義づけを行った。
主要評価項目は腎同種移植片喪失(再透析)とした。さらに、拒絶反応のパターンを検討するために、移植片の組織像、生検標本のC4d沈着、ドナー特異的抗HLA抗体を調べることで、拒絶反応エピソードのレトロスペクティブな評価を行った
新たな治療法の開発につながる可能性も
2,079例が主解析の対象となり、そのうち302例(15%)が生検で急性拒絶反応を証明された。拒絶反応例の平均年齢は45歳(非拒絶反応例49歳、p<0.0001)、男性が49%(同:69%、p<0.0001)、再移植例は40%(同:12%、p<0.0001)であった。
以下の4つの腎同種移植片拒絶反応パターンが同定された。1)T細胞関連型血管性拒絶反応(TCMR/V+、26例、9%)、2)抗体関連型血管性拒絶反応(ABMR/V+、64例、21%)、3)T細胞関連型非血管炎性拒絶反応(TCMR/V-、139例、46%)、4)抗体関連型非血管炎性拒絶反応(ABMR/V-、73例、24%)。
このうちABMR/V+は、これまで認識されていない表現型であり、循環血中のドナー特異的抗HLA抗体による動脈内膜炎で特徴づけられた。
TCMR/V-と比べた場合の移植片喪失のリスクは、ABMR/V-が2.93倍(p=0.0237)で、ABMR/V+は9.07倍(p<0.0001)に達していたが、TCMR/V+ではハザード比が1.5であったものの有意差は認めなかった(p=0.60)。
著者は、「現在の腎移植片拒絶反応の分類にはないタイプの拒絶反応――抗体関連型血管性拒絶反応(ABMR/V+)――を同定した。この移植片喪失リスクが高い拒絶反応が広く知られるようになれば、抗HLA抗体を標的とした戦略など新たな治療法の開発につながり、多くの腎同種移植片が救済される可能性がある」と結論している。なお、これらの知見は、マウスモデルで確立されている動脈硬化の免疫学的な進展の概念がヒトでも支持されることを示唆するという。
(菅野守:医学ライター)