冠動脈疾患(CHD)の2次予防において、飽和脂肪酸をω-6リノール酸(多価不飽和脂肪酸)で代替する食事療法は、全死因死亡、CHD死、心血管疾患(CVD)死をむしろ増加させる可能性があることが、米国・国立衛生研究所(NIH)のChristopher E Ramsden氏らの検討で示された。食事に含まれる飽和脂肪酸をω-6リノール酸で置き換えると、総コレステロール値やLDLコレステロール値が低下することが知られている。そのため、CHD患者の食事療法ガイドラインではこれらの代替が推奨されているが、リノール酸の臨床的なベネフィットは確立されていない。Sydney Diet Heart Study(SDHS)は、サフラワー油由来のリノール酸の、CHD死やCVD死の抑制効果に関する包括的な解析を目的とした無作為化試験で、データが紛失したため長年放置されていたが、同氏らがオリジナルのデータセットの回収に成功したという。BMJ誌オンライン版2013年2月5日号掲載の報告。
SDHSの回復データの解析と、これを含めた最新のメタ解析
研究グループは、食事に含まれる飽和脂肪酸のω-6リノール酸(多価不飽和脂肪酸)への代替による、CHDの2次予防効果を評価するために、SDHSの回復されたデータの解析を行い、さらにこれらのデータを含めた最新のメタ解析を実施した。
SDHSは、1966~73年にオーストラリア・シドニー市で進められた単盲検無作為化対照比較試験で、直近の冠動脈イベント歴を有する30~59歳の男性患者458例が対象となった。
これらの患者が、飽和脂肪酸(動物脂肪、マーガリン、ショートニング由来)をω-6リノール酸(サフラワー油、サフラワー油製の多価不飽和マーガリン由来)で代替した食事療法を受ける群または対照群(特別な食事指導を受けず、代用食は摂取しない)に無作為に割り付けられた。試験は、食事以外の要素はすべて両群で同等となるようデザインされた。
主要評価項目は全死因死亡とし、副次的評価項目はCVD死およびCHD死とした。
全死因死亡率:介入群17.6% vs 対照群11.8%(p=0.05)、メタ解析では有意差なし
介入群に221例(平均年齢48.7歳、平均BMI 25.1kg/m
2)、対照群には237例(同:49.1歳、25.4kg/m
2)が割り付けられた。
全死因死亡率は、介入群が17.6%と、対照群の11.8%に比べ有意に高かった〔ハザード比(HR):1.62、95%信頼区間(CI):1.00~2.64、p=0.05〕。
CVD死は、介入群が17.2%、対照群は11.0%(HR:1.70、95%CI:1.03~2.80、p=0.04)、CHD死はそれぞれ16.3%、10.1%(同:1.74、1.04~2.92、p=0.04)であり、いずれも対照群のほうが有意に良好だった。
これらのデータを含めたリノール酸介入試験のメタ解析では、CHD死(HR:1.33、95%CI:0.99~1.79、p=0.06)およびCVD死(同:1.27、0.98~1.65、p=0.07)のリスクが、ともに介入群で増大する傾向がみられたが、有意な差は認めなかった。
著者は、「飽和脂肪酸を多価不飽和脂肪酸に置き換える食事療法は、全死因死亡、CVD死、CHD死をむしろ増加させ、メタ解析でもω-6リノール酸介入による心血管ベネフィットのエビデンスは示されなかった」と結論し、「現在、飽和脂肪酸を多価不飽和脂肪酸で代用する方法は、世界的にCHDのリスク低減に向けた食事療法ガイドラインの中心となっているが、今回、ω-6リノール酸を最も豊富に含む食事の臨床的ベネフィットは確立されなかった。この知見は、このような代替食事療法を勧告するガイドラインにとって重要な意味を持つだろう」と指摘している。
(菅野守:医学ライター)