中~重度の急性呼吸促迫症候群(acute respiratory distress syndrome:ARDS)の成人患者に対する早期の高頻度振動換気法(high-frequency oscillation ventilation:HFOV)による治療は、低1回換気量法(low tidal volume)や呼気終末高陽圧換気法(high positive end-expiratory pressure)を用いた治療戦略に比べ予後を改善しないことが、カナダ・トロント大学のNiall D. Ferguson氏らの検討で示された。ARDSは重症疾患で高頻度にみられる合併症で、死亡率が高く、生存例にも長期的な合併症をもたらすことが多い。いくつかの報告により、HFOVは成人ARDS患者の死亡率を抑制することが示唆されているが、これらの試験は比較群が旧式の換気法であったり、症例数が少ないなどの限界があるという。NEJM誌オンライン版2013年1月22日号掲載の報告。
HFOVの有用性を最新の換気法と比較
OSCILLATE(Oscillation for Acute Respiratory Distress Syndrome Treated Early)試験は、成人の早期ARDS患者に対するHFOVの有用性を評価する多施設共同無作為化対照比較試験。
対象は、年齢16~85歳、2週以内に肺症状を発症した中~重度のARDS患者とした。これらの患者が、HFOVを行う群または低1回換気量や呼気終末高陽圧換気法を用いた治療戦略を施行する群に無作為に割り付けられた。主要評価項目は院内死亡率とした。
院内死亡率:47%vs 35%(p=0.005)、試験は早期中止に
2007年7月~2008年6月まで2ヵ国(カナダ、サウジアラビア)12施設でパイロット試験を行い、引き続き2009年7月~2012年8月まで3ヵ国(米国、チリ、インド)27施設を加えて患者登録を行った。
1,200例を予定していたが、548例の割り付けを行った時点で、HFOV群の高い死亡率が強く示唆されたため、事前に規定された中止基準には抵触していなかったものの、データ監視委員会の勧告により試験は中止された。PaO2:FiO2
HFOV群に275例(平均年齢55歳、女性39%、平均APACHE IIスコア 29、平均PaO2/FiO2 121mmHg)が、対照群には273例(同:54歳、44%、29、114mmHg)が割り付けられた。ベースラインの患者背景は両群間でよくバランスがとれていた。HFOV群のHFOV施行日数中央値は3日、対照群の34例(12%)が難治性の低酸素血症でHFOVを受けた。
院内死亡率はHFOV群が47%と、対照群の35%に比べ有意に高率であった[相対リスク:1.33、95%信頼区間(CI):1.09~1.64、p=0.005]。この院内死亡率はベースラインの酸素供給や呼吸器コンプライアンスの異常とは関連がなかった。
HFOV群は対照群に比べ、鎮静薬(ミダゾラム)の投与量が有意に多く(199mg/日vs 141mg/日、p<0.001)、神経筋遮断薬の投与率(83%vs 68%、p<0.001)が高かった。さらに、HFOV群は血管作用薬の投与率が高く(91%vs 84%、p=0.01)、投与期間も長かった(5日vs 3日、p=0.01)。
著者は、「中~重度の成人ARDS患者に対する早期HFOV療法は、低1回換気量や呼気終末高陽圧換気法による治療戦略に比べ院内死亡率を抑制しない」と結論し、「これらの知見は、たとえ生命を脅かすほど重度の低酸素血症の場合でも、HFOVのベネフィットは確実とはいえないことを示唆する」と指摘している。
(菅野守:医学ライター)