米国では卒後医学教育認定委員会(ACGME:Accreditation Council for Graduate Medical Education)によって2003年7月1日より、研修医の勤務時間規則が施行されたが、これによる勤務時間改善と患者死亡率との関連、教育強度の異なる研修病院間での相関については、これまで検証されていなかった。フィラデルフィア退役軍人医療センターのKevin G. Volpp氏らは、その関連性を評価。JAMA誌9月5日号に掲載された本報告は、民間病院のメディケア対象の短期・急性期入院患者を対象とした検証結果である。
勤務時間改善の前後で患者死亡率に差があったか
政府系を除く民間病院3,321病院に2000年7月1日から2005年6月30日にかけて入院したメディケア患者8,529,595例を、急性心筋梗塞、うっ血性心不全、消化管出血、脳卒中、あるいは全身性の整形外科的、または脈管手術のいずれかの診断関連群に分類し、時系列解析した観察研究。
教育強度の多寡によって患者死亡率に違いがあるかを調べるため、勤務時間改善前後の2000~2003学校年度と2003~2005学校年度を対比させ、共存症の有無、期間傾向、病院立地を調整しつつロジスティック回帰分析を行った。主要評価項目は全対象病院の入院30日以内の死亡率とした。
勤務時間の改善と死亡率の変化に相関はなかった
結果は、内科系・外科系にかかわらず、勤務時間の改善と相対死亡率の増減に有意な相関は認められなかった。教育強度の多寡でも同様で、改善後1年の内科系疾患群との関連オッズ比は1.03(95%信頼区間0.98-1.07)、外科系疾患群とは1.05(同0.98-1.12)、改善後2年でもそれぞれ 1.03(同0.99-1.08)、1.01(同0.95-1.08)だった。
唯一、脳卒中について、より教育強度の高い病院で勤務時間改善後に死亡率の上昇がみられたが、この関連は勤務時間改善前からみられたものだった。
非研修病院と最も教育強度の高い研修病院とを比較すると、勤務時間改善前1年と改善後2年目との間で、内科系疾患群で0.42パーセンテージ・ポイント(4.4%の相対増加)、外科系疾患群で0.05パーセンテージ・ポイント(2.3%の相対増加)の死亡率の絶対的変化がみられたが、どちらも統計学的に有意ではなかった。
これらから研究グループは、ACGMEの勤務時間改善は、少なくとも最初の2年間においてはメディケア患者の病状悪化と死亡率改善のいずれももたらしていないと報告した。
なお同日号に、同一執筆者による退役軍人病院を対象に行った検証結果が報告されている。あわせて読むと興味深い。
(朝田哲明:医療ライター)