自宅で心停止を来した患者に対する心肺蘇生(cardiopulmonary resuscitation:CPR)に家族が立ち会うことで、立ち会わない場合に比べ心的外傷後ストレス障害(PTSD)の発症が有意に改善することが、フランス・アヴィセンヌ病院(ボビニー)のPatricia Jabre氏らの検討で示された。先進工業国では心停止が年間約60万件発生しており、蘇生に立ち会う家族の心理的、身体的負担は大きいが、可能な限りの蘇生処置が行われたことを知るという長所がある。また、家族が立ち会うことで、見えない場所で行われる蘇生処置への疑念や非現実的な期待が払拭されるとともに、最後の別れの機会が提供され、死の現実を理解することで死別のプロセスの遷延化や病的な悲嘆、PTSDを軽減する可能性があるという。NEJM誌オンライン版2013年3月14日号掲載の報告。
家族のPTSD関連症状の抑制効果をクラスター無作為化試験で評価
研究グループは、患者近親者のCPRへの立ち会いによる、PTSD関連症状の抑制効果を評価するプロスペクティブな多施設共同クラスター無作為化対照比較試験を実施した。
自宅で心停止となった患者の配偶者および第一度近親者を対象とした。院外救急救命チームを、近親者にCPRに立ち会う機会を提供する群(介入群)または隊長が通常の対応を行う群(対照群)に無作為に割り付けた。
1次エンドポイントは90日後の患者家族のPTSD関連症状の発症率とし、2次エンドポイントは不安、うつ症状の発現、立ち会いが医療チームの蘇生活動やストレス、さらに法医学的問題の発生に及ぼす影響などとした。
PTSD関連症状は立ち会わなかった家族で1.6倍に
2009年11月~2011年10月までに、フランスの15の院外救急救命チームが参加し、570人の患者近親者が登録された。介入群に266人(平均年齢57歳、男性35%、患者のパートナー/配偶者55%)、対照群には304人(同:57歳、38%、56%)が割り付けられた。
介入群の79%(211/266人)が心停止患者のCPRに立ち会ったのに対し、対照群は43%(131/304人)であった。PTSD関連症状の頻度は、介入群よりも対照群で有意に高く[調整オッズ比(OR):1.7、95%信頼区間(CI):1.2~2.5、p=0.004]、立ち会った近親者よりも立ち会わなかった近親者で有意に高かった(OR:1.6、95%CI:1.1~2.5、p=0.02)。
CPRに立ち会わなかった近親者は立ち会った近親者に比べ、不安(24 vs 16%、p<0.001)やうつ症状(26 vs 15%、p=0.009)の発現率が高かった。
CPRへの近親者の立ち会いの有無は、生存率、2次蘇生処置の時間、薬剤の種類や用量、電気ショックの回数、医療チームの心理的ストレスなどに影響を及ぼさず、法医学的問題を引き起こすこともなかった。
著者は、「介入の有無にかかわらず、CPRへの家族の立ち会いは心理面に良好な結果をもたらした。立ち会いが蘇生活動の妨げとなったり、医療チームのストレスを増大させたり、法医学的な対立を生むこともなかった」とまとめている。
(菅野守:医学ライター)